ひだまりの日々[完結]

□四刻
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 屋敷までの道のりを名無しと喋りながら歩く。

 抱きかかえていた事への陳謝と、今まで放っておいてごめんなさいだの、人間界での名無しの様子を暫くみていた事のお礼を言われたりしたが、こっそり様子を見ていた事を知っていたとはつゆ知らず、気恥ずかしく、先程の不可思議な心情が上乗せされ邪魔をして頭には入ってこないでいた。

 「こっちに来てすぐに誰かと会うと思ったんだけど、誰にも会えなくて歩き回ってるうちに寝ちゃったの。ごめんなさい。重かったでしょ!」

「いいや、大丈夫だ。吾輩こそ、勝手に連れ出して驚かせたな。」

 「全然!それに土蜘蛛がお迎えに来てくれるとは思わなかったよ!いつも部屋にいて忙しくしてたから今日も忙しかったんじゃない?」

 「いや、今日は非番だったのでな……」

 「そっか!じゃあ丁度良かったんだね。来てくれてありがとう。」

 無駄な嘘をついてしまう……どうしたものか……。話が途切れ話題を探す。

 「そういえば名無しはこちらにいた時、屋敷には寄ったがそうは長居はしなかったが何処へ行っていたのだ?」

 唐突な話題だったが、名無しは答える。

 「えーと確か、お屋敷で騒いじゃうと土蜘蛛の仕事の邪魔になっちゃうと思ってこっちに来たときは、桜町を散策したり平原で皆と遊んだりしていたの。
懐かしい。あと、大ガマのお屋敷にお邪魔させてもらってたなぁ。」

 「それは初耳だ……」

 「大ガマ、遊びに行くと一緒に遊んでくれてね。よく夕方遅くまで遊んじゃったから家に帰るのが遅くなってお母さんに怒られたっけ。」

 うふふと笑う名無し。
 初めて聞いた事実だが、当時を思うと大ガマは議会への提出書類を期限には出さず大王からよく雷を落とされていた。
 大王の前では反省したように振る舞っていたが、妖魔界を出ればヘラヘラとし、書類提出より面白いことがあると言っていたのだ。

 (不真面目な事は今始まったことではなかったが、名無しと遊ぶことだったとは……)

 時を経て謎が一つ解けたが、名無しが来なくなったころからの大ガマは事務的なことはしっかりやるようになっていたが、女関係の噂がたえなくなっていた。
 無意識に思わせぶりな態度をとっている大ガマが原因のように土蜘蛛には聞こえた事案ばかりだったが。

 「大ガマも元気でいるかな?」

 「あぁ、奴も名無しが来なくなってから肩をおとしていたぞ。」

 「なら、大ガマにも謝らないと!」

 「……。」
 (……あまり大ガマとは会わせたく無いものだな……)

 意気揚々とする名無しだったが、反対に腹の底の黒いものが密かにくすぶった。
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