かえるのお姫様

□8days
1ページ/3ページ


暫くしていつの間にか寝てしまっていた大ガマはベンチに寝そべり目を覚ました。
隣にいたはずの名無の姿は無く、肩には女物の上着がかけられていた。

辺りは少し薄暗く虫の声が響いている。

起き上がり辺りを見回すも名無は見当たらなかった。

(名無は先に帰ったのか……。)

不意に風が吹き肩にかけられた上着から名無の花の様な香りが漂ってきた。
初めて会った時を思いだし、手にとって上着に顔を埋めたその時。

「おおがまさーん!」

背面から聞こえる名無の声を聞き、ばっと顔から上着を離した。

「!!名無!
先に帰っちまったかと思ったぜ!」

焦りながら声のする方を向き話し始めた。

「今、借りたタオルを洗って返しますって管理人さんに言いにいって来たんです。
管理人さん、気にするなってそのままタオル引き取ってくれて、なんだか困らせて悪い事しちゃいましたね。」

眉をハの字にして笑う名無は大ガマの隣に座った。

「おおがまさん気持ちよさそうに寝ていたので何にも言わずに離れちゃってすみません。
寒くなかったですか?日が傾くと風が冷たくなって最近は肌寒いですからね。」

「ありがとな!俺より名無は大丈夫だったか?」

「はい、私は大丈夫です。走って管理人さんのところまで行ってきたので。
それより生乾きで臭わないか心配ですね……」

「そりゃ俺も一緒だからわかんねぇな!」

「電車、あんまり人いない車両に乗って帰らなきゃ。」

夕暮れ時は帰宅ラッシュで電車が混むため二人でお喋りをし、時間をずらして名無を駅まで送った。

別れ際、大ガマが上着を洗って返すと言ってきかず遠慮する名無を少し困らせたが、駅のホームへと向かう後ろ姿を見届け、自分も店へと帰路についた。

名無の上着を手に歩く大ガマ。
明日は名無は店を休みだと聞き上着を手放したくなくなってしまった。

(明日は名無休みかぁ……つまんねぇなぁ。
とっさに上着洗って返すって言ったけど、洗濯どうやりゃいいんだかわかんねぇな……。)
次へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ