かえるのお姫様
□12days
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店内で一人ぼーっとする大ガマ。
そのうちに名無を駅まで送ってきた大やもりが帰宅し、大ガマに声をかけた。
「大ガマが名無ちゃんを送っていかないなんて珍しいね。おかげで久しぶりに外を歩いたよ。」
「……お前は平気なのかよ。」
「何が?」
「名無が他の奴のもんになっても平気なのか!?」
「平気もなにも名無ちゃんが決めた事だし、あんなに喜んでたでしょ。応援してあげたいよ。」
「お前はそんな程度なのかよ……」
「大ガマはてっきり大声出して反対して名無ちゃんの事困らせると思ってたけど。」
「なんか解んねぇけど名無が喜んでんの見たらなんも言えなかったんだよ……」
「ふーん。
ショックをまともに受ける精神なんて持ち合わせてたんだね。」
「解んねぇ……今までこんな事なかった。」
「まぁ、大ガマの回りにいる女の子はみんな君に夢中な子達ばっかりだっただろうからね。
振り向いて貰えない事には慣れてなかったってことじゃない?」
「どうすれば正解だったかなんて全然思い浮かばなかった……何やっても嫌われちまう気がして……」
「そっか。
でもさ、名無ちゃんは人間なんだから人間の恋人がいた方がいいんだよ。僕達は妖怪だし、一緒にずっと居られる訳じゃないんだから。
大ガマが何も言わなかった事は案外正解だったかもしれないよ。」
そう言うと大やもりは二階へ上がっていった。
「人間とか妖怪とか関係ねぇよ……なんで俺じゃないんだよ……」
一人ぽつりと呟いてソファーに倒れ込んで目を閉じると、初めて会った時に名無に感じた暖かさが脳裏に浮かび、キリキリと胸が痛んで動けなくなった。
その晩は眠ろうにも眠れず、ふと頭に過るのは名無の笑いかける顔と柔らかい手の感触で、浅く眠りにつくも悪夢と化して大ガマを苦しめるのだった。