かえるのお姫様
□14days
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「なんかあったのか?どうしたんだよ?」
突然現れて驚かれる事はあっても泣かれるとは予想外。
初めて泣く名無を目の前にした大ガマは慌てた。
名無は周りを気にして声を殺して涙を流していた。
「とりあえず席詰めろ。俺ここに座るから。」
大ガマは周りから名無を隠すように対面ではなく隣に座った。
泣くばかりで言葉にできず、暫くしてようやく小さな声で話し始める名無。
「……私、騙されちゃったみたいです。」
「どういうことだよ?!」
「私がここに来るか来ないかの賭けを友達としてたみたいです……」
「何度も店に来てたのもその為だったってことか?!」
「はい……メールが来て……知らずに浮かれてこんな格好して馬鹿みたい……」
言葉少なげにそう言って再び伏せて肩を震わせ始めた。
「くそっ!なんなんだあの野郎!」
店を飛び出して男を見つけ出して殴りかかってやりたい衝動に駈られたが、泣いている名無を一人にはさせられず、大ガマは拳を握りしめて座り続けるのだった。
名無が落ち着くのを待って店から出て自宅まで送る事にした。
二人で歩く通りは祭り一色でいつもの二人ならば瞳を輝かせ楽しむのだろうが、名無の目は暗く陰り、街の賑わいは写されてはいなかった。
歩きながら大ガマは名無に話しかける。
「でもよ、考えようによっちゃ、あんな奴に手出されなくて良かったと思うぜ?」
「はい……」
一言呟く名無はまだ落ち込みの色を隠せずに瞳が揺れていた。
焦れったくなった大ガマは再び話しかけた。
「元気出せって!」
「……すぐには無理ですよ……。
ほんの僅かな間だったけど、初めての事であまりにも嬉しくて……あの人でいっぱいだったんです。」
(あー。頭にくるぜ。
なんで俺じゃないんだよ!もっと早くに名無に伝えたら違ってたのか?!)
イライラとする大ガマは涙する名無に言葉を投げ掛けた。
「あ"ー!もう、忘れろよ!あんな奴!!」
名無は流れ出る涙を必死で拭っていた。
「あっ!そうだ!
うちの大家が失恋の特効薬は次の恋をするのが一番だっていってたぜ!だから俺と付き合おうぜ!
お、俺は名無が好きなんだ!
絶対、あいつなんか俺が忘れさせてやるから!」
「え……大ガマさん。」
名無は大ガマを見つめて固まり、片方の目から涙がこぼれた。
大ガマは好きだと言えた達成感に近い感覚を味わいつつも、最後の切り札を使ってしまった事に気付き緊張が走り、名無から発せられる次の言葉を祈るように待ったのだった。