かえるのお姫様
□9days
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午後の仕事中も上機嫌な大ガマは店の入り口付近の商品を整理しつつ向かいの店を盗み見ていた。
そんな大ガマに声をかける人物が現れた。
「こんにちは!お兄さんお久しぶりです!」
「あっ!お前らは!」
以前、道を尋ねた女子高生のふたりだ。
「お兄さんここの店員さんだったんですね!」
「あぁ、ちょっと前からな!」
「あの時はバイトの面接だったんですか?」
「まぁ、そんなもんだ。」
「お兄さんメールのアドレスも教えてくれない程急いでましたね!
今日は教えてくださいよ!」
「だからそんなのねぇって言っただろ?」
「本当にケータイとかスマホもってないんですか?!」
「ケータイ……んなのもってねぇよ!」
「えー!今時、古風ですねぇ。」
ふと視線をあげると店先で女子達と大ガマの喋る声が聞こえたのか名無がこちらを向く姿が見えた。
「いっ今は仕事中だ!話はまた今度な!」
そう言って女子高生を追い返してしまった。
二人はまた来るねと言って手を振り帰って行った。
(なんで俺いま追い返したんだ?)
いつもの来るもの拒まずだった自分を思うと不思議な感覚を覚えながら閉店時間を待ちわびる大ガマだった。
徐々に日は落ち時間は閉店時刻に近づいてきた。
大ガマはそわそわとし向かいの店を覗き見るもシャッターは一向に閉まらない。
店内には名無が一人のはず。
ガラス戸は閉まり照明は奥に明かりがぼやっとつく程度。
閉店時間を10分は過ぎたがなんの音沙汰もない事に我慢ならず、大やもりに声をかけ大ガマは店内に名無を迎えに行くのだった。
「おーい!名無!来たぜぇ!」
名無を呼ぶと店の奥からまだ接客用の姿で小走りで出て来た。
「おおがまさん来てくれたんですね!」
「約束したからな!
で、どこ行くんだ?」
また名無と出かけるものと決めつけていた大ガマはわくわくと期待をして聞いた。
「いえ、ちょっとお店の奥に……」
「は?!」
「あっ、お店シャッター閉め忘れてました!」
(いやいや!男と二人でいる時にシャッター閉めんの駄目だろう!!
……けど……俺ならいいって事か……)
ガラガラとシャッターを閉める名無の後ろ姿を見ながら複雑な思いが駆け巡った。
「あの、こっちに来てくれませんか?」
「……おぅ。」
頭の飾りをシャラリと揺らし、少し短めのスカートをふわりと翻して名無は大ガマを店の奥へと案内をした。
(これって……誘われてんのか?
いや、名無に限ってそんな事はねぇ!
……けど……少しくらい……)
そう思い手を伸ばしかけた時、名無は立ち止まり大ガマの方へ振り向いた。
「ここです。」
「うわっ!」
「えっ?なんですか!?」
「いっいや、なんでもねぇよ!」
「はぁ〜驚いた。お化けでもいたのかと思いました。
私、苦手なんですよ。お化けとか幽霊とか怖くて。」
「お化けなんていねぇよ!」
(あっ良く考えたら俺、妖怪だ……苦手って……)
少しのショックを受けつつ大ガマは名無に話しかけた。