さよならの歌は歌わない
□第4話
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龍也が出て行き、二人きりになる保健室。
功太はベッドのそばにある丸椅子に腰掛けた。
「日向先生は、美音が可愛くて仕方ないんだね」
『そんなこと…』
「あのさ、美音」
功太は顔を強張らせ、真剣な表情をしている。
滅多に見ない表情に美音は一瞬怯んだが、次の言葉を待った。
「美音は自分とペアを組みたいなんて思う人はいないって言ったよね」
『うん?』
「それは…何を根拠に言ったの?」
『根拠って…私はひねくれてるから、周りからのウケが悪いし…だから…』
「違うよ」
『!』
「美音はひねくれてなんかいない。ちょっと人付き合いが不器用なだけなんだよ。本当は優しくて、暖かい心の持ち主だって、俺は知ってる」
『なんで…言いきれるの』
「俺が友達になってって言ったの覚えてる?美音が弾くピアノの音を聞いて感じたんだ、 この子と友達になりたいって」
『………』
彼が自分にそんな想いを秘めていたとは思いもしなかった。変人で周囲から疎遠にされがちの功太…しかしその心は誰よりも思いやりがあり、一番信用できる友人である。
だから自分は…この男になんでも気が許せるのだと気づいた。
刹那、目の奥から込み上がるものが堪え切れなくなってしまい、彼女は唇を噛み締めた。
「泣かせてごめん」
『泣いてないもん』
美音は顔に布団を被せて啜り泣いた。
それから龍也が戻って来るまで、彼女は顔を見せることができなかった。
………――。
「一言言ってくれればよかったのに…楠本さん」
「うん…」
寮の自室で眠る美音をお見舞いに来た類と華恋が見つめる。
部屋には功太、龍也の姿もあった。
「昔っからコイツは…人に頼まず一人で突っ走る気があるからなぁ。今回はそれが仇になっちまった」
「ですね…」
「えーと…久世君はともかく、先生は彼女をご存知なんですか?」
「まあ、お前らなら喋っていいか。俺はこの学園の一期生でな、その頃から美音は母親について来ては俺や他の連中にちょっかい出しててな。ようするに妹みてーな奴だ」
昔の出来事を懐かしむように、龍也は目を細める。
「日向先生との関係はいいとして、なんで一人で頑張っちゃうんだろう?」
「そりゃあ…生い立ちだろうな」
「生い立ちって…」
コンコンコン
扉を叩く音がして、すぐに扉が開く。
入ってきたのは緋沙子だった。
「先生!?」
「なんで!?」
「何よ、母親が娘の見舞いに来ちゃダメなの」
「「全然!!」」
キッと睨みつけられ、二人はブンブンと首を振る。
その様子に満足したのか、緋沙子は睨むのをやめて娘の元へ歩み寄った。
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