さよならの歌は歌わない

□プロローグ
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春…出会いの季節である。
それは物語を始める情景として「王道」であり「お約束」でもあった。



新人アイドルグループ、ST☆RISHのプロデューサーとなった楠本美音は桜が満開の並木道に一人佇んでいた。
その手には、桜に負けにないくらい美しく咲き誇る色とりどりの花が束ねられた花束があった。






〜♪






不意に彼女の携帯の着信音が鳴る。







『…もしもし』


(美音、俺だ)







電話の相手は彼女が所属する事務所の取締役の日向龍也からだった。
取締役ともなれば普通の人間なら恐縮するところだが、彼女は飄々とした態度で電話を続ける。







『何か用?』


(何か用じゃねえ!お前今日なんの日か忘れたのか!?)


『え?誰かの誕生日だっけ?』


(…いっぺんシバかれたいのか?)







電話からでも彼の怒り具合が伺える。
美音は焦ることもなく、楽しげに笑い声を上げた。






『わかってるよ、今日からあの子たちのマスターコースが始まるのよね』


(わかってんならなんで事務所にいねえ)


『ゴメン…先週の命日にお墓参り行けなくて…さ。これからもっと忙しくなるだろうし、今日のうちに行っておきたくて』







美音の寂しげな声に龍也はしばらく黙り込んでいた。
そして大きくため息をつくのが聞こえた。







(…早めに来いよ)


『うん!ありがとう!』







嬉しそうに返事をしたあと彼女は電話を切り歩き出した。







春…






それは出会いの季節でもあり……別れの季節でもある






私がパートナー、折原類と出会い、永遠の別れをしたのもこの季節だった





彼は一年という短い期間の中で、私に人を信じること、人を愛することを教えてくれた




今から話すのは私と類、そして功太、華恋と紡いだ一年間の記録である






どうか飽きずに最後まで読んでほしい









あれは桜の花が咲き誇る、春の日のことだった――……








続く
 

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