さよならの歌は歌わない
□第2話
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「えっ、君楠本先生の娘なの!?」
食堂に着いた二人は類の奢りでランチを買った。
トレイを持ったまま移動する最中で、類は美音の母のことを聞いて心底驚いた顔になった。
『うん…』
「そうだったんだ…」
『あ、でも気にしないで。別に私に粗相したからって退学になんてならないから、むしろ私が怒られると思う。何してんだーって』
「あはは…でもあの先生なら有り得るなぁ」
類が苦笑していると、美音不思議そうにジーッと彼の顔を見つめだした。
「…あの、どうかした?」
『いや…綺麗な声だなぁって思って』
「えっ、声?」
まさか声を褒められるとは思いもしなかった類は目を見開く。
「声か…」
『ゴメンなさい、母親の仕事柄そういうのに敏感になってるみたいなの』
「いや、嬉しいよ。ありがとう」
分厚いレンズの奥で彼の目が笑うと美音も笑った。
と、そこへ…
「美音」
呼ばれて振り返ると、そこにいたのはやはり功太だった。
『ああ、功太』
「ああって何?俺ずっと待ってたんだよ」
『ゴ、ゴメン…』
呆れた様子の功太に平謝りする美音。
「あのっ…彼女が遅れたのは僕のせいなんです。すみません…」
「君は…」
「折原ー」
そこに第三者の声がかかる。現れたのはショートカットの女子生徒だった。
「森口さん…」
「大丈夫?具合悪いって言って保健室行ったけど」
「うん、もう平気だよ。彼女に介抱してもらったから」
「彼女?」
少女は類の隣に立つ美音に目を向けた。
「あっ、代表の子じゃん」
『…どーも』
「へぇー…かっわいい」
可愛い?
それが自分に向けられた言葉だと気づくのに数秒かかった。
「ねえ、せっかくだから一緒にお昼食べない?そこの二人も」
「え?」
「ん?俺も?」
そばにいた類と功太もキョトンとした表情になる。
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