さよならの歌は歌わない
□第5話
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『運命って信じる?』
ある日のティータイムで。
突然の問い掛けに春歌は持っていたティーカップを落としそうになった。
目の前のソファーに腰掛ける美音は可笑しそうにクスクスと笑う。
『ゴメンゴメン、唐突だったね』
「す、すみません。驚いちゃって…私はやっぱりST☆RISH(皆さん)との出会いが運命だったと思います」
『そっか…うん、そうだね。私もそう思うよ』
確かにあの六人との出会いは運命的だった。
まるで出会うことが必然のように。
『でも、私にはもう一つあった。運命的な出会い』
美音はソファーの肘かけに頬杖を立ててため息とともに呟いた。
…それが誰なのか、春歌はすぐにわかった。
『あの人の歌を聞いた瞬間…私の運命は決まってたんだと思う』
「初めて聞いた時、先生はどう感じました?」
『こう…胸がグワーって熱くなった』
そう言って自分の胸の中心に手を当てて、ギュッと握りしめる。
『私の曲を歌ってほしいって思った、パートナーになれたときは夢みたいだと思った。でも…私は彼の手を離さずにいることができなかった』
春歌は胸が締め付けられた。
彼女がいなければ自分は此処にはいなかった。
しかしそれは皮肉にも彼女の大切な人の死がきっかけでもある。
それを考えると、なんと声をかければいいのかわからなかった。
『ゴメンね、暗い話して』
「いえ…」
『そうだ、新曲のデモ作ったんでしょ。聞かせてみてよ』
「あっ…はい」
この人の曲を聞いていなければ、この人と出会ってなければ自分は今どんな人生を歩んでいたのだろう…
春歌は不思議な感覚に落ちていた。
桜の花が散り、春の終わりを告げようとしていた時期の穏やかな日のことだった。
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