さよならの歌は歌わない

□第8話
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類が美音達の手でイメチェンした翌日。








「………」








類は自分の部屋で鏡とにらめっこしていた。
眼鏡ではなく、コンタクトレンズを付けた状態で、だ。








「いつまでそうしてるの?」


「く、久世君…」


「功太でいいって。もう行かないと遅刻するよ」


「…先行ってて」


「わかった。ちゃんと来るんだよ」








功太が出ていくと、類は再び鏡に向きやる。
正直…今の自分を受け入れられるか不安だった。しかし眼鏡で行けばお目付け役の華恋に確実に叱られる。










「よし!」








行くしかない、と気合いを入れて彼は部屋を後にした。









…………____。








部屋を出た類は、緊張した面持ちで教室に向かう。
その姿を廊下を歩く人々が驚きの目で追っていた。









ざわざわ…





ひそひそ…








「………」








し、視線が痛い。




類は居心地悪そうに俯きながら廊下を歩く。
いつもなら小馬鹿にしたような視線だったり、空気のような扱いを受けてきた自分が、今や好奇の目に晒され、特に女生徒からの熱い視線を感じられた。







「ねぇ…あれって…」



「Aクラスの折原君?」



「うっそ、超イケメンじゃん」



「私ドストライクなんですけど…」









時折聞こえるひそひそ声に、類は更にこそばゆい気分になり足を速めた。








ドンッ







「うわっ、すみません!」


「おう、こっちこそ悪ぃ…い?」








急いでいると人とぶつかってしまう。
視線を上げた先にいたのは龍也だった。







「あ、日向先生。おはようございます」


「お前…折原、なのか?」


「は…はい」








怪訝そうに顔をしかめながらも、確かめるかのように名前を呼ぶ龍也。
類が頷くとようやく眉間のシワが取れる。









「一体何があった?」


「その…楠本さん達が色々としてくれて…」


「美音が?…そうか」








納得した声を上げると、龍也は彼の頭をポンポンと撫でた。








「いいじゃねーか、その方がアイドルらしいぞ。仲間に感謝しとけ」


「ありがとうございます」








とりあえず礼を言う。
するとそこに担任の緋沙子が通りかかる。









「あーら、男前がいると思ったら類じゃない」


「お、おはようございます。先生」


「アンタよくわかったな…」


「顔の輪郭やパーツでわかるわよ。で?一体どうしたの」


「美音がやったんだと」


「へぇー」







龍也から事情を聞いて、彼女は意味深に笑みを浮かべる。









「…?あの…」


「ああ、ゴメンね。もう予鈴が鳴るから、行きなさい」


「はい」








緋沙子に促され、類はその場に立ち去った。








「…アイツがなあ」


「随分優しくなったのねー。どういう風の吹きまわしかしら」








怪訝そうな龍也の隣で、クククと愉快そうに緋沙子は笑っていた。








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