指先から愛を奏でよう

□第4話
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神宮寺レンは自分がモテる男だと自覚していた。
現に彼の周りにはいつも見目麗しい女子生徒が集まっている。

ちょっと優しくすれば女は必ず落ちる。
彼はそう確信していた。






この二人に出会うまでは。







「ここの小節、このメロディーでいいのか迷ってて…」


『まあ、このままでもいいとは思うけど音の強弱に集中してみたら?それだけでも違う印象になるから』


「はい!」







廊下を歩いていたレンは聞き覚えのある声を聞いて足を止めた。
曲がり角で会話をしているのは二人の少女。





片方はまだ幼さを残す、汚れを知らない瞳が印象的な…例えるならフワフワの白い子猫


もう片方は大人びた雰囲気で、しなやかで品格のある…例えるなら美しい黒猫





どちらも不思議と魅力を感じられる女性達だった。







「まるで小鳥がさえずるような話し声が聞こえたかと思ったら…子羊ちゃんと子猫ちゃんとはね」


「神宮寺さん!?」


『………』







レンが姿を見せると、美音はあからさまに嫌な顔をして驚いている春歌の前に立ち塞がる。






「楠本先生…?」


『今日はもう帰りなさい』


「は…はい」






美音に言われるがまま春歌はその場を立ち去って行った。
残されたのは美音とレン。







「…さながら子猫を護る母猫のようだね、レディ」


『誰が母猫よ、誰が。作曲でわからないことがあるから教えてほしいって頼まれただけ』


「聖川といい、子猫ちゃんといい、随分あのレディに親切だねぇ」







不敵に笑うレンを見て、美音は眉をひそめる。







『…ウチのクラスの生徒に手ぇ出したらただじゃおかないわよ、この万年発情期』


「ひどい言われようだな、ならレディが相手をしてくれるかい?」


『絶対に嫌』







美音はこれ以上関わるまいと歩きだそうとしたが、ふと思い出したことがあってレンに振り返る。







『そうだ、作詞の課題出してないそうじゃない。いい加減出さないと退学にするって龍さん怒ってたよ』


「リュウサン?ああ…リューヤさんのこと。別にかまわないよ、俺も潮時だと思っていたからね」


『…もしかして、わざと?ここにはお兄さんの命令で入れられたから?』


「………」


『図星?』


「…だったら、どうだと言うんだ」


『何も、君を引き止める理由はない』







レンは鼻を鳴らすと、歩いていた廊下を再び歩きだした。







『ねえ、ほんとにそれでいいの!?』


「………」







美音の掛け声も聞かず、レンは立ち去っていく。







『才能はあるのに…まさに宝の持ち腐れね』







その背中に向かって美音は小さくつぶやくのだった。





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