らしくっ!

□第四話
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「一松?」


仕事から帰ってくると私の家の前で一人の男が突っ立っているのが、遠目に見えた。

紫のパーカーに一本ラインのジャージ、突っ掛けサンダルを履いた猫背の男。

じーっと食い入るように、我が家を見つめている。


「何やってんのあいつ」


もう陽も西の空の向こうへ去って濃藍が降りてくる時間帯だというのに、ちっともそこから動かずに佇むその姿は、もうアレだ。不審者。

怪しんでいるとおまわりさんがどこからともなく現れ、一松の肩を背後からぽんと叩いた。

あ、ヤバイなアレは。

オーバー過ぎるほどに肩を跳ね上がらせた一松は振り返ると、挙動不審のお手本みたいに焦りまくっている。
目は泳ぎまくり、冷や汗出まくり。
手品で鳩が飛び出すように、無数の猫がすぽぽぽーんと一松から出まくり。

ん……?猫……?

何かを否定したいのかかぶりを振り、何とか笑みを作ろうとしたのがかえって殺人鬼の暗黒微笑となり狂気の沙汰だ。

これぞ現代社会が生み出した闇の象徴、松野一松である。

あ、手錠かけられてる。ついに一松は逮捕されてしまった。
手錠に紐をくくり付けられそれを引っ張られて、抵抗虚しくやつは連行されていく。

するとそこに一人、また登場してきた人物がいた。


「わっせわっせ!あれ!?一松兄さん、おまわりさんとどこ行くの?あ……ついに誰か殺っちゃった?」

「何言ってんのお前!?このタイミングで引き気味に物騒なこと言うんじゃねーよ!タイホの意味わかる!?どうにかしてくれよ……!」


ずいっと、手首を拘束している鉄製のソレを一松は十四松に見せつけた。必死だ。


「えー……タイホ……?あ!大砲?今から打ち上げられるの?いいなー、一松兄さん星になるんだー!」


しかし十四松にはまるで通じていなかった。

例の野球のユニフォームを着て、泥だらけで帰ってきた十四松。
一体いつも誰と野球をしているんだろう?


「何だ君は?同じ顔!?」


警戒しながらじろじろと視線を上下させるおまわりさんに、十四松は「野球しよ、野球!」といつもの調子だった。

そしてブンブンと金属バットで素振りを始める。

なぜこの状況で、火に油を注ぐのか。

答えは簡単だ。バカだから。

もう見てられない。


「あの、違うんです!」


バカ二人とおまわりさんの間に慌てて割って入ったものの、言葉が見つからない。
だって救いようがない。

違うって何だろう、何にも違わないのに。


「大丈夫ですから!」


一つも大丈夫じゃない。

闇属性を隠しもしない野郎と、イッちゃってる顔でバットを振り回す野郎。

ちょっと署で話を聞かせてもらおうか案件としては、十分である。



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