10000打感謝企画

□She
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「頼むぞ十四松!」

「あいあいさー。カラ松兄さん準備はOK?」

「ああ、帰ったら抱えきれないほどのキャンディをやるからな!マイリルブラザー!!」

「やったー!」


サタデイアフタヌーン。土曜日の昼下がり。

そんな会話を交わしながら俺は今玄関の前で、親愛なるブラザー十四松の肩に担がれている。

時間がない。
彼女との待ち合わせに、間に合わない。

どう考えても走ったってダメだ、情けないがタクシーに乗る金もない。

これしか、ない。


「いよいっしょー!!!」


十四松が掛け声と共に勢いよく俺をスカイに向かって、投げた。力の限りだ。


「のあああぁああぁあ!?」


雲一つない青天に突っ込んでいく。太陽にぶつかるんじゃないかと思わせるほどの、剛腕だ。

正直二度と経験したくはなかったが、背に腹はかえられない。男にはやらねばならない時がある。

何より、愛しいハニーのためだ。

息もできないくらいの速度で飛び続け、二つ先の駅前に落下した。時間にすればものの十秒くらいか。


「フッ、さすがはマイブラザー……コントロールは抜群だ」


道路にめり込んだ頭を抜いて立ち上がり、全身をはたいて汚れを落とす。
割れては困るので内ポケットにしまっておいたサングラスを取り出し、装着する。

激痛で死にそうだ。

だが落ち着け、男はいつでも余裕を持たねばならない。それが美学というやつだ。

道行く人々がチラチラ見てくる。
それも仕方ないだろう、なんたって俺は神に魅入られしファンタジスタ。
松野家次男、松野カラ松なんだからな。


“ねえあの人今空から降ってこなかった?”

“もしかして宇宙人とか?っていうか……なんかイタくない?”


聞こえない聞こえな〜い。俺は何もしてないぞ、イタいって何だ〜?

ひそひそと声を潜めているガールズの視線が、俺に集まる。
悪いなカラ松ガールズ。今日は相手をしてやれない。

というかこれからずっと、フォーエバーか。

俺の愛は、ただ一人だけのものになったんだからな。

おっと、早く行こう。ハニーよりも遅れて登場するなどあってはならない。

待ち合わせ場所の駅の改札付近で、柱にもたれてその時を今か今かと待つ。
休日の昼だからか、やたらと人の往来が激しい。



それでも――

俺にはわかるんだ。



どんなに沢山の人で溢れていようと、迷いもない。


時が止まったかのような感覚に、俺は呼吸すら忘れていた。


なまえだ。


どれだけ遠くからだって、一目で見つけられてしまうんだ。

この目は、キミを追ってしまう。周りなんか映らない。瞬きするのさえ、勿体ない。

キミ以外の全てがぼやけて、霞む。

オーバーだと笑われるかもしれないが、輝いているんだ。

この世界で唯、キミだけが。

まだなまえは俺には気づいていないけれど、磁石のように俺の視線は彼女に引き寄せられて離すことができない。


「カラ松くん!」


改札を通って辺りを見回すなまえと、目が合った。
途端に彼女は嬉しそうに微笑み、こっちに小走りで駆け寄ってくる。

なんて言うんだろうな。なんて表せばいいか、まるで出てこない。

陳腐かもしれない、安っぽいかもしれない。

それでも俺にはこの言葉しか、浮かんでこないんだ。


天使。


それしか、彼女を言い表すことができない。


「待った?――って、どうしたの!?頭に何か刺さって血が出てるよ!?」


近くまで来たなまえが、ぎょっとしている。

しまった!
アスファルトに突っ込んだ時に刺さった破片を抜くの忘れてたあぁ!!ミステイク……!

いや、慌てるな。カラ松、お前ならできる。なんたって俺は(以下略)。

クールだ、あくまでクールに振る舞え!


「フッ、どうってことないさ。男は常に危険と隣合わせだからな」

「もう……何があったか知らないけど、心配になるから気をつけてね」


言いながらなまえは鞄からハンカチと消毒液を出し、処置してくれた。

優しいんだなマイエンジェル!
消毒液を持ち歩いてるとかマジエンジェル!



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