らしくっ!

□第二話
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私は緑のソファに腰掛けていて、六つ子はその前で横一列に並んであぐらをかいたり正座だったり思い思いに座ってる。
全員の視線が私に集まっていた。


どうして、わかってくれないの?

どうして私があんた達から離れたと、思ってるの?

あんた達だって忘れたわけじゃ、ないでしょう?


“決別した”あの日が、甦る。

昨日のことみたいにあの時の痛みが、また私を襲う。

自分の半身を捨てたような、冷たい痛み。


「こんなはずじゃ、なかった……」


唇を噛み締め、両手を強く握る。

一番、恐れていたこと。

何事もなかったかのように、戻ってしまうことだ。


「じゃあなんで、帰ってきたの」


誰もが口を噤むなかで、囁きにも似た低音が投げかけられた。

「俺達と関わりたくなかったんなら、他の場所で生きる選択だってできたはずでしょ。帰ってくれば俺達が……少なくともおそ松兄さんが放っておくわけないってわかってたはずだよ、お前は」

三角座りでじっとりとした視線をよこしている、紫のパーカー。呪い松だ。

「いや、なんで俺だけ?お前らも超ソワソワしてたじゃん。成長して帰ってきた幼馴染とか、シチュエーション的にエロくない?妄想しちゃうよね〜」

と、鼻の下を擦りながらニヤニヤしているおそ松は無視。

赤はおそ松。緑はチョロ松。黄色が十四松。ピンクがトド松。

とすると、コイツは……

「えっと、カラ松だっけ?あんた――」
「アァ!?誰がクソ松だオラ!!ミンチにして猫のエサにすんぞこんボキャァ!!」

はわわわわわわ!!!めっちゃキレられた!!!ちょっと間違えただけじゃん!?あんたら間違えられることなんて日常茶飯事じゃん!?

「夢子ちゃん、一松兄さんだよ。カラ松兄さんと間違えるとか、自殺行為だから」

ビビりまくってたら、トド松が苦笑しながらそう言った。そういえば十四松が教えてくれたっけ、青パーカーがカラ松だって。

コイツ一松だったんだ……ほんと、何があってこんな風になっちゃったんだろう。
それにこんなに怒るなんて、カラ松と何か因縁でもあるんだろうか。どうでもいいけど。

どうしてここへ帰ってきた、か。

呪い松もとい一松が私を責めているのか単にぶっきらぼうなのか、別人格になってしまったコイツの心中を察することは今は、できない。

「私だって、そうしようと思ってたよ。もうこの街には戻らない、って。一人でも、ここじゃないどこかで暮らしていこうって。だけどどうしても両親が許してくれなかった」

お父さんは心配性だし、お母さんも泣いて引き止めてきたから。そんな両親を置いていくことなんてできなかった。

「それに……あんた達だって落ち着いてると思ったの。もう、いい歳した大人なんだから」

呆れながら小さく息を吐いて、六人を順に確かめていく。


「フッ……」


突然それまで沈黙を貫いていた青パーカーが、鼻で笑い悠々と立ち上がった。



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