らしくっ!
□第三話
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「ほんとにほんとにほんっとーに夢子ちゃん?」
「そうだって言ってんじゃん」
訝しげに私の顔をまじまじと見つめてくる十四松は、まだ納得いってなさそうだった。
だから、卍固めをかけてやった。
「どう?信じる気になった?」
「アイタタタタタタタタ!!うん、夢子ちゃんだー!!」
放してあげると、にぱぁ顔が復活する。
「可愛い可愛い可愛いー!!!めちゃくちゃ可愛いねー!!なんでなんで!?」
「ん〜……お化粧してる、からじゃない?」
「え?デカパン博士に可愛くなる薬もらったの?」
「一言も言ってないよね!?」
驚くのも仕方ない、と思う。
土曜日のすっぴん&髪の毛ボサボサ状態から、今の完全武装の私を目にすれば。
メイクは女性に、魔法をかける。
初めてのメイクは高校生の時で、友達がしてくれたんだっけ。
仕上がって鏡を見せられた時の衝撃を、覚えてる。まるで生まれ変わったかのようだった。
私が私じゃないみたいで。
自信を、与えてくれた。
“女らしく”なりたかった私はそこから一生懸命練習して、どんなメイクが自分の顔をより引き立たせてくれるかを研究し続けて、今に至る。
派手なわけでも濃いわけでもないけれど、魅せられるメイクを。
それが、私の鎧なの。
私を守るための。
「わ、もうこんな時間!遅刻する!」
腕時計に視線を落として、駆け出そうとする私に「どこ行くの?虫捕り?」と十四松が聞いてくる。
何でだよ。虫カゴも網も持ってねーだろうがよ。
「仕事!どこぞのニートくんとは違って、働かないと生きていけませんので」
「だってさ〜。一松兄さん」
バットに縛り付けられ道路に突っ伏している人物に他人事みたいに笑う、十四松。いや、あんたもだよ。
っていうかアレ一松だったんだ。動かないけど、生きてるんだろうか。
いや、今は一松の生死なんか考えてる場合じゃない。急がなくちゃ。
「いってらっしゃーい」というハツラツな十四松のお見送りの言葉を背中に受けて、走り出す。
てっきり私と六つ子の間には気まずい空気が漂うと思ってはいたものの、十四松は十四松だった。
そんなモノを微塵も感じさせない、平常通り。
素直に、感謝しよう。
ただでさえ緊張しているのに、余計な心理的ストレスは負いたくなかったから。
現在遅刻しそうには、なっているけれども。
「初めまして。本日からこちらで皆さんと一緒に働かせて頂くことになります、夢見夢子です。ご迷惑お掛けすることもあると思いますが、出来るだけ早く慣れるように努力致しますので、よろしくお願いします」
心臓発作で倒れるんじゃないかってくらいバクバクと心音が煩く鳴るなかで、どうにか挨拶を済ませる。
温かい笑顔と拍手で迎えられて、胸を撫で下ろす。
ちゃんと就業時間には間に合ったし、職場の人も優しそうだ。良かった。