『らしくっ!』番外編
□このどうしようもない僕らを、笑って許して愛してくれ【未完】
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ちらりと左側を見やる。
一松は素知らぬ顔。十四松はよくわかってなさそう。トド松はちょっと不安そうにしている。
そして、俺の右側にいる兄二人を見る。
「えー?聞こえないっスよセンパ〜イ。もっと大きな声で言ってくれませんー?あ、そのあったま悪そうな髪の毛カッケーっすね!!」
にこにこしながら、おそ松兄さんはあろう事か強面のセンパイ達に中指を立ててみせる。
我が目を疑った。
「俺には聞こえるぞおそ松、猿どもの喚き声がな」
カラ松兄さんまでもが、握り拳の親指を下に向けて相手を煽る。
「おい何やってんだよ!!」
慌てて長男次男それぞれの、挑発的なポーズをとっている手を下ろさせる。
いや、もうさ……なんで上二人はここまでバカなわけ……。
ため息をついて、何気なく隣に視線を移したら。
「って、おいいいいぃ十四松ううぅ!!なんでお前はケツを出してるんだ!?しまえ!今すぐしまえ!!」
なぜか十四松がセンパイ方に向かってケツをぺろんと出していたから、急いでズボンを引き上げさせた。
お前ら……あんなに母さんに口すっぱく言いつけられただろーが!
中学で暴れすぎて散々迷惑かけたんだから、高校からは心を入れ替えてまともになれって!!
……そう、まともに。
なれるのかな。俺たちまともになんて、なれるのかな。
夢子もそれを望んでたんじゃないのか。
俺たちが乱闘騒ぎ起こして、怪我するたびに文句言いながらも手当てしてくれてた。
あいつもよく言ってたな。
『お願いだから、喧嘩しないで』って。
血を見るのが、辛そうだった。
なのにあの頃の俺たちはあいつの想いも無碍にして、やりたいようにやってた。
そうだ。少しづつ、夢子は離れていってたんだ。
俺たちが気づけなかった。
何があったって、どんなことがあったって、お前は俺たちの傍にいるんだと信じて疑わなかった。
離れるはずがない、なんて安心しきっていた。
一番夢子がいなくなることを恐れていたのは、おそ松兄さんのはずなのに。
止めようとも、しなかった。
夢子……なんで突然、あんな事になっちゃったんだよ。
嫌いだと唇を震わせて、俺たちに背を向ける。
目に涙を溜めて、瞳を滲ませて、睫毛を揺らす。
口を固く、結ぶ。
お前の最後の表情だけが、脳裏に焼き付いてる。
俺にはどうしても、あれがお前の本心だったとは思えないんだ。
それでも、俺たちと離れたいとお前が強く望んでいるのがわかったから、聞けなかった。
なぜだと、口にすることが出来なかった。
今になって沸き上がる。
なぜだ、どうすれば良かった、どこで間違えた――尽きない後悔が。
……ダメだ。散々考えてきたじゃないか。
考えて考えて、でも確かな答えなんて掴めなかったじゃないか。
広大な底無し沼で、小指の先ほどの石を探すようなものだ。
もう、いないんだよ。夢子は。
だけどもしも……もしもまた、お前と会う事が出来たなら――。
「お前らァ何をやっとるんだ!!」
突如野太い怒号が、空気を裂く。
ハッとして、意識せずともそっちに目がいった。
スーツを着た体格のいい中年の男性が、怒りを露わにして走ってくる。
「お前ら新入生だろ。さっさと校舎に入れ!」
「は、はい。ほらみんな行くよ」
どう見てもここの教師だろう。
余りの迫力に逆らう気なんて起きるわけもなく、残り五人に声を掛けて足早に歩き出す。
周りの、たぶん俺たちと同じ新入生であろう生徒達の眼差しが痛い。
「ねえ見て、みんな同じ顔!」「すご〜い」と、ヒソヒソ声と笑い声が聞こえてくる。
俺は恥ずかしくて顔が上げられなかった。
おそ松兄さんはへらへらと手を振ってたりしていた。
こうして、最悪な気分のまま俺は入学式を終えた。