main(長編)
□1.治療士なるもの
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「何でこんな事に……。」
名無しさんは現在、消毒箱を持って庭園を歩いていた。
遡ること20分前、国の第1王子から野良猫を追い払えと命を受けた。それに加え、
「庭園近くの木に居てね、こちらに気付くか小石を投げてみたが、頬をかすめて終わったんだ。」
ときた。
相手が人間じゃないにしろ、怪我をしている生き物をほっとけません!と急いで消毒箱を持って名無しさんが飛び出したのが10分前。
「猫に小石投げつけるなんて、イザナも何があったんだろう。」
長年側に仕えているから分かるが、イザナは目的や意味の無い行動はしない。つまり、今回も意味があってとった行動なのだろう。
「だからって急に石を投げるなんて酷いことする……ってこの辺か。」
1人ブツブツ文句を漏らしながら歩いていた名無しさんは立ち止まる。
庭園近くには何本か高さのある木が植えられており、名無しさんは1本ずつ近づいて確認しようとした。
その時---…
「……っ!」
ざあぁぁっと木の葉が舞い上がる程の風が吹いたかと思うと、庭園の花弁が一気に風に流されていく。
急な風に驚いて目を閉じた名無しさんがその中で目をゆっくり開けると、近づいた木の枝に黒い影が見える。
「……っえ⁉」
野良猫⁉
そう思った名無しさんの思考は、その黒い影と目が合った事で止まってしまう。
「……へ?……人間?」
ポカンとする名無しさんを見つめながらその人物は猫目を柔らかく細め、笑顔でこう言った。
「あれ?お嬢さん消毒箱なんて持ってどこに行くんだい?」
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