main(長編)

□1.治療士なるもの
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「いいかい、名無しさん。治療士たるもの、いかなるときも----...」


















ふわり、
意識が夢から戻る感覚に目を覚ます。
窓の外に目をやると静寂に包まれた森や空が、朝陽に色付くのを待っているかのようにさわさわと風に揺れている。手元の懐中時計に目をこらすと、時刻はまだ5時を指そうとする所だった。


「早く起きすぎた・・・。」




名無しさんはボソリと呟くとベッドからゆっくり起きあがり大きく伸びをした。再びベッドに沈む事も考えたが、目が覚めてしまったのでそれは諦めた。



身支度を整え軽い食事を済ますと、名無しさんは白衣を纏って治療室へと向かった。

















ウィスタル城に代々仕える治療士の一族の1人として、名無しさんは幼い頃からこの宮廷内で働いていた。元々の素質も認められ、今は若くして副室長となり治療室を支えている。また、第一王子であるイザナ専属の治療士も任されていた。







「失礼します!名無しさん副室長!イザナ殿下がお呼びです。」


バタン!と大きな音を立てて治療室に入ってきた兵士に、部屋にいた治療士はみな手の動きを止めた。なんたってあのイザナからの呼び出しなのだ、皆顔に緊張の色を見せている。ただ1人を除いて。


「え?なんだろ?」


きょとんとした表情で首をかしげると、手にしていた包帯を棚に戻す。
室長に許可を得て治療室をあとにするその後ろ姿を、残された治療士は尊敬の眼差しで見送ったのだった。
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