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□2.第2王子の従者
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「いやーまさか猫に間違えられるなんてね。」



「……本当にごめんなさい。」



名無しさんは頭を地面に向けてジリジリと下げていく。二人は先ほどの木の下にある芝生に腰を下ろしていた。



「いいんだよお嬢さん、あんな所にいた俺も悪いから。」


「……いや、でも。あ、そうだ傷の手当をさせて下さい。傷を負ってるのは間違いないんですから。私は治療士なんです。」


「治療士?そういえばその消毒箱…。」



猫目の男が首をかしげるのをみると、名無しさんはゴソゴソと首元に手を回しチャリ、という金属音と共にネックレスの身分証を取り出した。



「私、名無しさんと申します。ウィスタル城治療室副室長を任されています。あと今はイザナ殿下専属の治療士もさせて頂いているんです。」



名無しさんが誇りでもあるその身分証を大事に握りながら、まっすぐな瞳で話すとその男はギョッとした表情を見せた。





「兄殿下の…。…なるほどねぇ、分かったよ名無しさん嬢、俺はオビ。今はゼン殿下の従者を(勝手に)させて貰ってるよ。」


オビがニコッと笑うと、今度は名無しさんがギョッとする。ゼン殿下の従者になんという無礼を働いたのかと思うと、冷や汗が背筋をツーっと伝わった。




「あ、あの…私とんでもない無礼を…。」



顔を青くしている名無しさんを見て、オビはブッと吹き出した。




「いや、こちらこそ兄殿下専属治療士殿とは知らず、あの様な無礼な格好でいた事をお許し下さい。」



そう言いながらオビはさながら従者のように片手を自身の胸の前に置き、跪いてみせた。その様子に名無しさんも最初はポカンとしていたが、次第にオビの笑顔につられて笑みが零れた。
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