main(長編)
□3.繋がり、始まる。
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「で、オビ、お前それどうしたんだ。」
煌びやかな装飾が施されたテーブルに並ぶ朝食を前に、ゼンはほど良く焼けたベーコンを口に運びながらオビに問う。
目の前には、質問された当の本人が主人の部屋でありながらフカフカのソファでくつろいでいた。
「そういえば、こないだイザナ殿下が帰城された時から貼ってるよな。」
カップに紅茶を注いでいたミツヒデもオビが貼っている頬のそれを密かに気にしていたのか、大丈夫なのか?と心配の声をかけた。
「やだな、主。旦那。何ともないですよ。勝手に剥がしていいものか思案してるところなんで。」
オビが手をヒラヒラと振りながら笑顔で答えると、ゼンがピクリと反応する。
「勝手にって…自分で貼ったんじゃないのか。白雪か?」
何か言いたげな表情のゼンを見て、オビはケラケラと笑う。
「まさか、これ位の傷でお嬢さんの手を煩わせたりしませんよ。主、治療士の名無しさん嬢って知ってます?」
ミツヒデの淹れた紅茶を飲んでいたゼンは手を止める。
「あぁ、名無しさん殿か。もちろん知っているが…って、まさか名無しさん殿に治療してもらったのか⁉」
驚きのあまりカップをカチャン!と大きな音を立てて置くと、奥で書類の整理をしていた木々から咳払いが飛んきた。
「え?俺そんな変な事言いました?」
ゼンの反応にオビが首を傾げると、ミツヒデが残り3人分の紅茶を淹れながらうーんと唸る。
「名無しさん殿はイザナ殿下専属治療士だからなぁ、他の者の治療を行うのは少し珍しいんじゃないか?」
「お前は本当に誰とでも仲良くなるな。木々以外。」
「ひどいですよ主。」
朝食を食べ終えたゼンは木々がまとめた資料に目を通しながら答える。
「名無しさん殿には幼い頃からミツヒデや木々同様に世話になっていてな。とても治療の腕がたつのも知っているし、兄上が唯一、言葉を崩して良いと許した人物とも聞いている。」
へぇと相槌を打つオビに、ゼンはハァとため息をつき、感心したような、呆れたような表情で名無しさん殿にあまり迷惑をかけるなよと付け足した。