main(長編)
□5.重なる鼓動
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「えっ⁉私も考試に同行するの⁉」
「トリグル殿がどうしてもと言っていたからね、主がそれを認めて赤髪のお嬢さんと名無しさん嬢が考試に一緒に付く事になったんだ。」
治療室にいる名無しさん殿を呼んできてくれ、とゼンから命を受けたのは十数分前の事。
驚いたまま固まる名無しさんの前にはオビが居た。
「わ、私でいいなら同行させてもらうけど。なんか変に緊張してきた。」
急な出来事に名無しさんは緊張感からか、はぁぁと顔を手で覆い深呼吸をする。その様子をみたオビはフッと微笑むと、名無しさんの頭をポンポンと撫でた。
「大丈夫だよ名無しさん嬢。俺も後から考試が問題なく出来てるか確認のために馬で追いかけるから。」
頭に感じる温もりに、名無しさんは感じたことのない恥ずかしさから別の意味でさらに顔を深く隠す。優しく微笑むオビを見ると、不思議と不安が解けて普段吐かない弱音を吐いてしまいそうだと名無しさんは思った。
「うん、ありがとうオビ。考試が正当なものかちゃんと見極めてくるね。オビが来てくれるならなんだか安心した、また後でゆっくり話そうね。」
パッと顔を上げると、名無しさんはその長い髪を1つに結いにっこりとオビに微笑み返した。
くるりと踵を返して考試会場に向かおうとする名無しさんだが、
グイッ………‼
前に向かっていたはずの身体が急に後ろに引っ張られた。
「……っへ⁉」
驚いて後ろを振り返ると、名無しさんの腕を掴みながらこちらを静かにみつめるオビの姿。
「…ぇ、オビ……どうしたの?」
名無しさんが問いかけた所でオビはやっとハッと意識を取り戻した様子で、名無しさんの腕を解放する。
「あ、いや、ごめんよ名無しさん嬢。なんか咄嗟に掴んじゃっただけ。……無茶はしないようにね。」
「…?それはオビもね!」
じゃあまた後で、と言い残し名無しさんはパタパタと考試会場へと向かう。
オビはその後ろ姿を見送ると、妙な胸騒ぎを覚えながらも馬の準備に向かったのだった。