main(長編)

□3.繋がり、始まる。
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同時刻、名無しさんはというと治療室で物品の補充を行っていた。



(最近は剣の稽古で打撲や捻挫が多いから冷やせるように氷は多くして…あ、そういえば綿花とガーゼ少なくなってたな……)


本日必要になるだろう物品はここ数日の患者の傾向から大方の予想が付く。手際よく準備しながら、名無しさんは昨日のイザナとのやり取りを思い出す。














「………イザナ殿下‼」

昨日夕刻、イザナに呼び出された名無しさんは執務用の椅子に腰掛けるその主に対してワナワナと体を震わせていた。



「野良猫なんて表現、私で遊びましたね!」


お陰で恥をかきました!と、顔を赤くする名無しさんを見ながらイザナは楽しそうに微笑んだ。


「誰も本当に猫だと言っていないし、私の話を最後まで聞かずに飛び出して行ったのは名無しさん、貴女だよ。」





正論で返され、ぐっ…と名無しさんが言葉を詰まらせているとイザナは続けた。



「それに、心外だがあれは名無しさんに懐きそうだ。」


「懐く……?」



意味がわからず戸惑う名無しさんに、イザナは視線を名無しさんから窓の外に向けた。



「まぁ…どこまで出来るのか様子をみるが。名無しさん、今後はゼンの元でも治療士としても動きなさい。」



「へっ!?」


思いがけない言葉に名無しさんは目を丸くして固まる。


「ゼンの事だ、どうせまた色々な事に首を突っ込むに違いない。私も城を開ける事が増えるからね、名無しさん、あれが何かやらした時に治療士としてサポートしなさい。」



穏やかな口調で、それでいて他者がそれ以上踏み込めない言葉に名無しさんは何か引っかかりながらもその命令に頷いたのだった。













「ゼン殿下の元で…か。」


思い出しながらまた名無しさんはモヤモヤしてきた。なぜ急にこのタイミングで?と疑問が浮かぶ。しかし、イザナの事なのでまた何か隠された意味があるに違いない。考えるより自分に与えられた仕事をしっかりこなそう、と名無しさんが治療室の窓から雲ひとつない空を見上げると、首元の身分証がキラリと陽の光を反射した。
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