main(長編)
□5.重なる鼓動
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見張り台についた名無しさん、白雪一行は、兵士の案内で待機部屋に案内された。
「まだそれらしい鳥の姿は見えませんが、そろそろ表へ出ていましょうか。」
「そうですね。」
「うわ、結構高さがあるんですねー。」
はぁーと名無しさんが見張り台の高さに感心していると、カチャリ、と扉が開く音がし、ブレッカ子爵が入ってきた。
「---白雪どの、私と取引をしよう。」
「………はい?」
ブレッカ子爵の突然の発言に、白雪は一瞬思考が止まる。その後も続く子爵の言葉から、名無しさんは彼が何を言いたいのか理解した。
「私が裏で君を支持しよう。そこに一緒に来ている宮廷治療士の副室長名無しさん殿も、聞けばイザナ殿下専任の治療士と聞くではないか。イザナ殿下で飽き足らず、今後はゼン殿下にも近づくつもりか?」
「なっ………!」
「イザナ殿下も、名無しさん殿も、私が色々言われている事とは関係ありません。そして鳥は来ます。白紙になんてさせません!」
名無しさんがブレッカ子爵に反論するよりも早く、白雪が語尾を強めて反論を唱えた。
その姿を見て名無しさんも子爵を真っ直ぐに見据え、首元の身分証を取り出した。
「ブレッカ子爵、白雪は私の友人でもあり、両殿下を支えたいとこの道を志した者。この身分証がその証でもあり誇りです。どうか、考試を続けて下さい。」
名無しさんの手元には、身分証が光る。静かに、それでいて諭すようにブレッカに声を掛けると、ブレッカはカッとなり白雪から鈴を取り上げ湖に投げ込んだ。
「………‼」
「なっ、ブレッカ子爵何を………!キャッ…‼‼」
「時間までここにいろ!」
バタン!
鈴を取り上げられ、気付いた時には待機部屋に白雪と名無しさんは閉じ込められていた。
「う、嘘でしょ。」
まさかここまでの強行手段に出るとは。名無しさんが扉を見ながら呆然としていると、白雪が部屋の窓をバン!と開ける音に振り向く。
「し、白雪!ちょっと待って、まさか貴女……‼」
「大丈夫。名無しさんさんはここに居て!」
バッーーー・・・!!
「ーーッ白雪‼」
名無しさんが叫び窓に駆け寄るより早く、白雪は窓から下の湖に飛び込んだ。