main(長編)

□6.その答えは
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「イザナってやっぱり細かいところに気付くんだな…。」


イザナから解放されたあと、名無しさんはゼンの執務室で黙々と備品のチェックをしていた。
……時々、独り言を呟きながら。


先ほどの観察眼には正直驚いていた。治療室では部下にバレないように、完璧に痛みを我慢した歩き方をしていたはずなのに。やはり、長年彼に付き合っていると色々分かるところがあるのだろう。そう思うと、イザナの観察力には感心する。
きっともうイザナ以外にはバレていないはずだ。







あと1人を除いては………











「……あれ?名無しさん嬢もしかしてまだ足痛むかい?」







……やっぱりバレた






備品を持って歩いていると、背後から明るい声が名無しさんの足を止める。






「オビ、分かるの?」


名無しさんがゆっくり振り返り複雑な顔で尋ねると、オビはいつもの笑顔で答える。



「……なんかさ、歩くときの歩幅とかリズムが違うんだよね。足音も若干違うかな。庇って歩いてる感じっていうの?」


「えぇっ⁉みんなの歩いてるリズムなんて覚えてるの⁉」



オビの返答に名無しさんが驚いていると、


「いや、全員はさすがに無理かな。名無しさん嬢の足音だけは無意識に覚えちゃったんだよ。」


と、さらに驚きの返答が返ってきた。





「あんたの足音が近くに聞こえると、無茶してないって安心するからね。前から気にして耳に残るようにしてたってわけ。」




変わらずニコニコ話すオビの言葉に名無しさんは顔がかぁっと熱を持って赤くなるのを感じた。
なんだろう、このくすぐったい気持ちは。恥ずかしくなる台詞を吐くオビに、最近名無しさんはどうしていいのか分からずにいた。





「…?顔が赤いけど大丈夫かい?」




オビの言葉にハッとして顔を上げると、すぐ近くにオビの顔があるためさらに名無しさんの顔は赤くなる。


そして、



サラリーー

と、髪が掬われたかと思うとおでこに感じる少し冷たい感覚。



ーーーーーっ‼‼‼‼




コツン、とオビと名無しさんのおでこ同士がくっき、目の前には綺麗な切れ目と少し長い睫毛が落とす影が広がっている。突然のことに名無しさんが固まっていると、



やっぱりちょっと熱いけど、熱でもあるんじゃないかい?なんて、どこまで本気なのか、冗談なのか分からない台詞が聞こえてくる。




「だっ大丈夫‼」



バッと反射的にオビから離れ、両手をブンブン振る名無しさんの姿を見てオビはキョトンとしている。


「そうかい?無理はしないようにね。あ、そういえば治療室で名無しさん嬢を探してる兵士が居たよ。」


「えっ⁉あ、そうなの?じゃ、じゃあちょっと行ってくる!」





ゼン達によろしく言っといて!と、名無しさんは顔を赤くしたままバタン、と扉を閉めこの部屋を抜け出した。







(………イザナに髪を撫でられても平気なのに、どうしちゃったんだろう。)





名無しさんはドキドキと煩い心臓を鎮めるために、大きく深呼吸をしながら足早に治療室に向かう。
















「何しちゃってんだか…」




ポス、と自分の額に手をやると先ほどまで感じていた温もりがまだそこにあるような錯覚に陥る。1人残された部屋で、オビは自分の額に手を当てたまましばらく立ち尽くしていた。

名無しさんに会うたびに感じるこの感情になんと名前を付けたら良いのか、もうすでに答えは出ているのかもしれない、と考えながら。
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