創作小説

第四話
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「ある程度分かるようになってきたみたいだね。」

秀一は額の汗をぬぐう。

「それに、僕より体力あるよね、桜庭さん。」

「まあね。私は運動は大得意だよ。」

麻琴は手に持った短剣のような物を控えめに振る。



先日蓮司に言われたように、麻琴は鍵と戦うための武器の使い方を教えてもらっているのだ。

この武器は、周りにある自然のエネルギーを利用して生成されている。
実体はなく、麻琴の手にしている短剣の形は強い光で形を保っている。
蓮司から渡された本物の鍵に似ている道具は、エネルギーを吸収して、武器を作るための媒介としてあるものだ。
それは今、麻琴の右手首にブレスレットとしてつけられている。

「すごく便利なものだね。ほら、これなら銃刀法違反で捕まることないよね!」

麻琴は冗談めいた口調で言う。
それを聞いて秀一は肩をすくめる。

「そういえば、私のこのブレスレットと寿くんがつけてるもの同じみたいだけど、武器になるとどうして形が違うの?」

麻琴の持っているものは短剣の形で、秀一が持っているものは長剣だ。
長さが違うのもあるが、光の色も少し違う。

「ああ、それは吸収しているエネルギーの質が違うからなんだ。」

秀一は自分の武器を掲げる。
青みが強い色をしている。

「僕のは主に、水のエネルギーを集めて生成されているんだ。どうやら使うエネルギーによって特徴が変わるみたいなんだ。」

「それなら、私の武器はなんだろう?」

麻琴は自分の武器を見つめる。
色は、緑の色が強くでているように見える。

「蓮司さんから聞いたけど、間違ってなければ桜庭さんのものは植物だったと思う。」

「植物かあ。」

あまり強そうには思えないけどなあ、と麻琴は思う。
麻琴の考えていることが分かったのか、秀一はふふっと笑う。

「使うエネルギーが常に周りにあるっていうのは、良いことだよ。日本はまだまだ緑が多い国だからね。」

なるほど。
麻琴は感心する。

「じゃあ、今日のところはこの辺にしようか。」

秀一は手に持った武器を手放す。
すると、先ほどまであった光が拡散し消えていく。
武器の生成のために使ったエネルギーはそのまま自然に帰っていく。
麻琴も倣い武器を還す。















「美鶴、お前仕事どうするんだ?」

蓮司が作業机でPCを操作しながら言う。
美鶴はソファーに深く座りぼうっとしていた。

「しばらく休止にするって、マネージャーとは話しつけた。」

「そうか・・・。」

しばらくの間、蓮司がキーを叩く音だけが部屋に響く。

蓮司が美鶴と出会ったのは、3年前のことだ。
当時美鶴はデビューしたばかりの新人で、路上でストリートライブをしていたこともたまにある。
ちょうど近くの公園で美鶴がライブをしていた時に通りかかり、興味本位で聞いたことが始まりだった。
蓮司は講義の帰りなどでたまに見つけたら見物する程度ではあった。
そんなある日、蓮司は研究資料を探すたに街の大きな図書館に出かけたのだが、その時偶然美鶴とばったり出会ったのだ。
驚くことに、美鶴は蓮司の顔を覚えていたのだ。
最近はライブには大勢のギャラリーがいたので、蓮司の存在など気にも留めていないと思っていたが。

その時同じ書棚にいたのだが、美鶴のような中学生が読むようなものはないはずだった。
それが気になり、少し会話をしていたのだが、途中から美鶴が冗談のような話をしだしたのだ。

「俺は、他の世界が見えるんだ。」

この言葉は今も覚えている。

蓮司はシャツのポケットから煙草を取り出し、口にくわえて火をつける。


彼が言うには、時々見覚えのない世界が見えるというのだ。
それは夜寝ているときに見るのではなく、たとえば教室で窓を見つめているとき、ライブに集まった観客の中に、ある時は見上げた空に。
日常生活の時にちらほらと垣間見るらしいのだ。
見える風景がどこかにあるのかと自分なりに調べてみたようだが、どうやらこの世界にはない風景だと結論づけたようだった。

最初に聞いた時は、頭のおかしいやつだと思った。
しかし、冗談を言っているようにも思えなかった。
それと、美鶴は何か予見めいたことも言っていたのだ。

エネルギーの枯渇。

これには蓮司はぴんと来た。
エネルギーの枯渇問題は、ここ最近真剣に議題にあがってくる。
蓮司はその為に、この書棚まで足を運んできたのだ。
美鶴はその問題を、もう一つの世界の声により知ったのだという。
向こうの世界が今危機的状態であること、それはこちらの世界がエネルギーを搾取しすぎているので、世界の均衡を保つためにある力が働いている。そのようなことだった。
各地で起こる原因不明の停電は、そのある力が働いているせいだと彼は言う。

確かに、最近は世界的に停電が多かった。
その理由が、これか?
蓮司は信じがたい気持ちではあったが、同時に興味もあった。
美鶴の言うことが本当なら、このまま放置するわけにもいかないだろう。
職業柄、物事をはっきりとさせたい質でもあったので、蓮司は美鶴からの情報を頼りに、独自に研究を進めてきたのだった。

それから二人は協力しながら対策を考え、瑞樹や惠、秀一、麻琴といったメンバーを集め、今の組織が出来上がった。
まだまだ人手不足ではあるが、ある程度満足している。

しかし、蓮司には不安なことが一つある。

それは美鶴の体調のことだ。
彼は元々身体が弱く、体力がない。
それに加え、最近はめっきり元気がなく見える。
前に美鶴がぽろっと言ったことがあるが、もう一つの世界を見たり、声を聞いたりすることはとても大変らしいのだ。
それに最近は、前よりも頻繁に起こっているらしく、身体が追いついていないようだ。
ある程度は自分で制御できるというのだが、そうしている気配は全くない。

何を見て、何を聞いているのかは蓮司にはわからない。
どれほどの苦しみなのかもわからないが、何も助けてやれないのが歯がゆい。
できる限り、鍵との戦いをさせないようにするしかなかった。


蓮司はデータを整理し続ける。

これが、どうにか役に立つといいんだが。

「あ」

美鶴が突然声を上げる。

「どうした?」

蓮司は振り向く。
美鶴はどうやら新聞を読んでいたようだ。

「この間鍵に襲われて意識不明だった人、回復したみたいだね。」

蓮司は美鶴と一緒に新聞を覗き込む。

「やっぱり、そうだね。襲った鍵を倒せば、奪ったエネルギーは元に戻る。人間でも。」

「そうみたいだな。」

蓮司はホッとする。
学校にいた鍵が倒されてから、しばらく時間は経っているが、しっかりと持ち主に帰ってきたようだ。

「それはそうと、俺もしばらく休みだからさ、麻琴ちゃんと秀一と同じように活動していいでしょ?」

「だが、お前体力ないだろう。」

「無理はしないよ。できそうな時だけ。」

蓮司はため息をつく。

「約束だぞ。それより、お前いつまでここにいるんだ?家に帰らなくていいのか?」

美鶴は少しの間黙っていたが、新聞をたたみ立ち上がる。

「俺の気が済むまでかな。」

そう言ってウインクをする。















<第四話・終>


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