夢小説

刀剣乱舞:Side歌仙兼定
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「主、そろそろ出陣の時間ではないのか?」

歌仙は襖の奥にいるであろう審神者に声をかける。
やはり返事がない。

こいつは・・・失礼。
このお方は、私が仕える新たな主人だ。
だが、時々というか常に、なぜこのお方に仕えねばならぬのかと疑問に思う。


審神者としての自覚を感じられない。

主のその上の者は、なぜこのお方にこのような仕事を任されたのであろうか。

主がこのようでは、隊の士気も下がるばかりだ。

「特に命令がないのなら、僕が指揮らせてもらうぞ。」




「―――以上だ。本日の討伐任務はお前たちに任せる。」

「最近本当に主の姿を見かけないけど、本当に大丈夫なの?」

堀川国広が不安げに問う。

「まさかとは思うけど、歌仙君、主に毒盛ってるんじゃないの?ははは。」

燭台切光忠が冗談を飛ばす。

「バカなことを言うな、全く。」

歌仙はその場を後にする。



近侍の仕事は、内番や出陣の他に刀装や修理部屋の手配、管理など雑務をこなす。
さらに審神者から直接名を受け、他の刀剣男子に告げる伝言役の質も持つ。

主は以前まではしっかり任務をこなしていたように思える。
しかし、なぜここにきてこうもやる気をみせないのだろうか?

やめたいなら、やめたいと正直に言えばよかろうに。






「主、本日の任務は――」

どうせ、今日も特に返事はないだろうが、形だけでも務めは果たす。

「雅ちゃん。」

歌仙はどきっとする。
この呼び方は、主だ。

「・・・・主、その呼び方はやめてくれと何度もいっているが。」

「雅ちゃん、あのね。」

全く、僕の言うことは全く聞きもしない。

すると、主が襖を開けて廊下に出てきた。
しばらく見ていなかったから、一瞬戸惑ってしまった。

「直接話したかったから、えっと、これ。」

主は紅茶とお菓子を手に持っていた。
どうやら、何か語らうことがあるようだ。




二人は縁側に腰かけ、紅茶とお菓子をそばに置きしばらく無言のまま過ごした。
この場所は本丸の裏手にあり、他の者は滅多に入ってこない。

「私ね、審神者をやめることにしたよ。」

突然、彼女の口からそんな言葉がこぼれた。

まさか、直接聞くことになるなんで。
思ってはいたが、本当に辞めるなんて、
本当に辞めるのだろうか?
歌仙は困惑する。
この事を、他の皆にどう伝えればよいのか、納得してくれるのだろうか、いや

僕が納得できるだろうか?

常常、辞めればいいと思ってはいたが、心の奥では絶対に辞めないと確信があったのだ。
だが、そうではなかった。

自分が不甲斐なかったのかもしれない。

そう思うとすべての行動が、過ちのように見えた。



「雅ちゃん。」

歌仙は顔を上げる。
とても青い顔をしている。
彼の中では今物凄い勢いで、色んな事がぶつかり合っているのだろう。

私は彼の顔を見て、不意に笑ってしまった。

「主。これが笑い事か?」

歌仙が怒りを抑えるように目を閉じる。

「全く貴女はどうしてこう突然になって言い出すのか・・・」

「雅ちゃん。今のうそだよ。」




「は?」












彼女が一時姿を見せなかったのは、本丸に増えてきた刀剣男子たちが手に負えなくなっていたからだそうだ。
確かに彼女がいない方が、統率をとりやすい。

主は、常に細かなところまで指示をしてしまう。刀剣男子を思ってのことではあるが、そんな事をいちいち気にしていたら、逆に任務に支障をきたす。

全て僕に任せた方が上手くいくと気づき、しばらくは勝手にさせていたようだ。


「でも、もう雅ちゃんに甘えるのはやめた。」

主は今までの結果報告書に目を通しながら言う。

「私、みんなに失望されたくなくて。」
「いらない気遣いまでしていたってことに気付いたから。」
「なんとなく、人が増えていくにつれて私の味方がいなくなっていくような気がしたし。」
「雅ちゃんも、遠くの人になっちゃったような気がして。」


歌仙は傍らで今日の報告書を作成しながら耳を傾ける。

「でもね。私から遠ざけてるってやっと気付けたから、頑張れる気がする。」

歌仙はふっと顔をあげる。
主が僕を見つめていた。

「私を見ていてくれて、ありがとう。雅ちゃん。」

本当に久しぶりにみた主の笑顔だ。
歌仙も自然と心が和らぐ。

直ぐに上手くいくとは思えない。
だが、僕がフォローしていけばいいだけの話だ。

最初から最後まで、僕は彼女だけを見ていくつもりだ。

この時が無性に楽しくて、愛しくて、歌仙はふっと微笑む。







「何度も言うが、雅ちゃんっていうのは、やめにしないか?」






<刀剣乱舞:Side歌仙兼定・終>



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