夢小説

刀剣乱舞:Sideにっかり青江
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本当に彼女はみんなの人気者だ。

今日も僕らの主はせっせと役務を果たしている。
たまに起こるアクシデントにも素早く対応してくれるし、今まで刀を折ったことが一度もない。
そんな優秀な審神者が僕らの主だ。
傍らにはいつも僕―――

と、言いたいところだが。
気付いた時からずっと、彼女の近侍は一期君だ。
ちなみにだけど、僕は一度もその任に就いたことはない。
一期君よりもずっと前からこの本丸にいるんだけどね。

まあ近侍の仕事は僕には無理かもしれない。
あんなにきびきびと動ける自信はないからね。

それでも、近侍ほど彼女の近くにいられる存在はない。
素直に羨ましいと思う。


青江は手に持った自分自身の刀を見つめぼうっと考える。

「ちょっと青江君?全然集中してないでしょう。」

加州が訝し気に青江に言う。

「手合わせ中なんだから、もっとしっかりしてくれないと意味がないよ。」

「え?ああ。ごめんごめん。」

青江は刀を構えなおし、加州と向き合う。


今日は打刀組と手合わせをする日だ。
僕は一応脇差だが、主はなぜか打刀組と組ませる。
それでも皆、文句も疑問の一つも言わないのだ。

「今日の夕ご飯何かな〜。」

大和守が道場の端に座り込み、暇そうに呟く。

「お前さ、毎回そういうのやめてよね。」

加州が迷惑そうに言い、刀を鞘に納めた。

「今日はそろそろ終わり。」

加州は青江と向き合い一礼をする。
青江も刀を納め、加州に倣う。







「あれ?青江は?」

審神者が料理を運びながらきょろきょろと見渡す。

「え・・っと。あれ?今日いるよね?」

今日の担当表を思い出そうと難しい顔をする。

「いるよ〜。さっき部屋に声かけたんだけど、後で行くって言ってたから。」

大和守がテーブルに人数分のお箸を置きながら言う。
他の皆も頷く。

「お腹痛いのかな?」

今剣が心配そうに言い、勢いよく立ち上がる。

「僕、見てきます!」

「私が見てくるから、今剣はみんなとご飯食べて。あったかいうちに。」

審神者は今剣の頭を軽くなで、部屋から出ていく。

「今日ちょっとぼーっとしてたもんねえ、青江君。」

加州が鍋から具材をとりわけながら呟く。

「心配ですね。今日は薬研さんいませんし。」

宗三が小夜の隣に座る。

「本当、どうしたんでしょう。」


















「あれ?僕寝てた?」

青江は起き上がり、乱れた髪を確認する。
青江は自室の畳の上に寝転がっていたのだが、いつの間にか眠ってしまっていたようだ。
夕食の時間だと呼ばれたことは覚えているのだが、その後何だか面倒くさくて、倒れ込んでしまったのだ。

今何時だろうか。かなり眠っていたような気がする。周りの音も聞こえないので、皆寝静まった後かもしれない。
耳をすますと、居間の方からは数人の声が聞こえる。
青江はふと障子の向こう側に人の気配を感じだ。目を凝らすと、どうやら廊下に誰かが座っているようだ。

青江は立ち上がり、障子を開けた。

「おはよう。」

主だ。
青江はびっくりして審神者を見つめる。

「凄く寝てたから起こすのやめちゃった。」

そう言って立ち上がり、青江に手招きした。

「お腹空いてない?」







「ごめんね。今遠征から帰ってきた人が居間を占領してるから。」

審神者はそう言い、自分が普段過ごしている離れのリビングに青江を連れてきた。
青江は辺りを見渡し、ちょっと驚く。
ここはかなり洋風だ。
主がもともと住んでいた場所に似せて作っているのだろうか。

「お待たせしました〜。今日のご飯はほうとうです!」

審神者は嬉しそうに一人用の小さな土鍋を青江の前に置く。
主は料理が好きだ。
いつも色んな食事を僕らのために振る舞ってくれている。

「青江君大丈夫?」

席に座ったまま手をつけようとしない青江をみて、審神者が心配そうに言う。

「いや・・・。何でもないよ。」

何だか申し訳ない気持ちで胸がいっぱいだ、と青江は思う。
一番近くに居たいとは思ってはいるが、いざこのように近くにいると自分の価値を見失ってしまう。今だって、自分が寝過ごしただけで主に迷惑をかけてしまっていると反省をしているのだ。
審神者は青江の気持ちがわかったのか、優し気に微笑む。

「みんな知らないかもしれないけど、私はけっこう夜更かしするんだよ。だから気にしないで。」
「あ、そっか。食べてるの見られるだけってのも落ち着かないよね。私奥の部屋にいるから、食べ終わったらそのままで帰っていいよ。」

「いや、ここにいて。」

ポロっと自分の口から出た言葉に、青江は驚く。無意識のうちに気持ちが言葉になって出てしまった。
しかし、審神者は青江よりも驚いたようだ。

「わかった。」

審神者は青江と向き合う形で、テーブルを挟んで座る。

お互いしばらく無言になってしまい、ひどく居心地の悪い空気になってしまった。
心なしか、審神者は先ほどよりもそわそわと落ち着かない。
何か話せる話題を探しているのだろうか。

「ん、美味しいね。」

青江はのんびりと食事を始めた。

「ありがとう。」

審神者はそう言って、少し恥ずかし気に笑う。

「なんだか、青江と居るとちょっと落ち着かないや。」

「どうして?」

「あんまり話をしたことってないよね。私が声かけなかったのもあるけれど・・・。」

審神者は考えるような仕草をする。

その通りだ。
青江もまさにその状態を今まで続けてきたのだ。
自分から声をかける事はなかった。
主はいつも忙しいし、僕のことで煩わしさを感じてほしくない、と青江は思っている。

「特に説明もせずに、打刀たちと稽古するように決めてしまったし。青江は疑問に思わなかった?」

その問いかけに青江は少々苛立った。
勿論、疑問に思っている。
だが当たり前のことのように指示されれば、従うのが普通だろう。
自分が知らないルールでもあるのかもしれなかったし。

「疑問だよ。どうしてか教えてくれるの?」

審神者はしばらくの間言葉に迷っていたようだが、決心したのか姿勢を正す。

「青江って、大脇差でしょう?私の・・・私の感覚だと、打刀と同じっていうか。」

青江は拍子抜けしたような顔で審神者を見つめる。
その顔を見て、審神者は顔を赤らめる。

「やっぱり・・・。馬鹿にしたでしょ。」

「いや、馬鹿にはしてないよ。」

青江はくすくすと笑う。

「私は青江のこと強いと思っているし、大好きだから。」

彼女は少し、うつむき加減でそう言う。
青江はその言葉に気持ちが昂るが、彼女の「大好き」には特別な意味はないはずだ。
それは少々残念なことではあるが、しょうがないことでもある。

青江はちょっと迷ったが、せっかくの機会なので自分も審神者に気持ちを伝えることにした。

「僕も主のこと、大好きだよ。」

青江はにっこり笑いながら答える。
審神者はますます顔を赤くして、恥ずかしそうに眼をそらす。
そういうところがとても可愛いと思う。

「それよりね、今度からは何かあったら遠慮なく私に伝えてね。忙しいとか、そういうのは気にしなくていいの。」

審神者は真剣な表情で言う。

「ん。わかりました。」

青江はそう答え、残りの夕飯に再度とりかかる。
審神者はその様子を見て、わかったのかどうか不安になったが、彼に任せるしかないと、そう思った。
現状たくさんの刀剣男子達の管理に手いっぱいで、個人個人にまで気が回らない。
細かいところは、彼らの方からアプローチしてくれないとわからない。
特に青江に関してはわからないことが多すぎる。

もっと彼らのことを知らなくては。
審神者はそう思う。

「そういえば、近侍はなぜ一期君が?」

「一期がやりたいって言うから、任せたの。」

「へえ・・・。」

「こんな面倒な仕事、誰もやりたがらないと思ったから、甘えちゃった。」

面倒な仕事か。
青江はため息をつく。

彼女はわかっていない。
常に主のそばに居られるという特権がどれほど魅力的であるかということを。
面倒な仕事は、建前だ。

それにしても、一期君は抜け目がない。
青江は少し悔しさを感じる。

ここはひとつ悪戯をしてみるか。

「気を付けなよ。襲われないようにね。」

審神者は青江の言った言葉に動揺し、動きが固まる。
青江はその様子を見てにこっと笑う。

「いくら刀でも、今は健全な男子だからね。」


























「はい、じゃあ今日の当番表ね。」

庭に集まった皆の前に、審神者が和紙に手書きの表を掲げる。

「内番さんたちは、本丸のことよろしくね。」

一番近くに立っていた青江に、当番表を丸めて手渡す。

「あ〜あ。今日は何?」

和紙を受け取る際に、青江の指が審神者の手に触れる。
すると、審神者は慌てた様子で手を引っ込める。
青江は少し驚き、審神者の様子を伺う。

「えっと。それじゃ、よろしくね。」

審神者は青江の顔をろくに見もせず、足早に去っていく。

見間違えでなければ、もしかしたら。

「意識してくれるのは、良い傾向かもね?」

青江はそう呟く。
少々かまをかけすぎただろうか?
それでも、彼女にそういう対象に思われたことが嬉しかった。
でもこの後、無駄に避けられたりしないように努力しないとなあ。
青江は小さく苦笑する。







僕も、他の皆もいつまで人の姿でいられるかわからない。


せっかくだから、僕はもっと満喫したいんだ。





<刀剣乱舞:Sideにっかり青江・終>

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