夏目友人帳

第壱話「新しい夏」
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小さいころから、変なものをよく見かけた。
これは、霊感がある証拠。

それとも、病気?







「遠いところよく来たね。」

古い民家の玄関で出迎えてくれたのは、親切そうな女将さん。

私はここに、夏休みの間お世話になる。

「今日からお世話になります。梶原巴です。」

私はぺこりと頭を下げる。



ここは、私が小さい頃少しの間だけ過ごしたことのある小さな田舎町。
この民家は父の親戚の方が住んでいる家だ。
母が病気がちだったために、父は私をこの家に預けて母を隣町の病院まで連れて行っていた。

母の病状は良くならず、治療の施しようもなく、1年前この世を去った。

残されたと巴と巴の父は、巴の母の死後もあまり変わらない生活をしていた。
私も20歳。母の死は覚悟していたことでもある。
1年経った今、母のことを忘れた日はないが、前よりもずっと前向きな気持でいられる。

今年の夏は、大学3年の夏だ。
とっても大事な時期。
これからの進路も考えなきゃいけないし、大学の課題も多い。

巴は都内のとある大学で民俗学を専攻している。
今夏にこの地に来た理由は、妖怪が主な理由だ。
昔巴が小さかった頃、よくいろいろなものを見たことがある。
それが妖怪のような類だと気づいたのはずっと後になってからだが。
巴はそういう不思議なものがみえる質だし、妖怪の伝承も多くある。
教授には、面白い研究課題だと励ましをもらっている。勿論、自分は妖怪が見えるとアピールしたことは一度もない。

必要なものもすべて持ってきたし、1か月はここでフィールドワークをするつもりだ。






「さて。」

巴は借り受けた部屋に荷物を置き、一息をつく。
妖怪のことにとても詳しいサークルのメンバーから、この辺の情報は仕入れてきている。
どうやら、有名な祓い屋の別荘がこの近くにあるそうなのだ。
一般人が聞いたら笑ってしまう内容だが、勿論本気だ。
後は、よく妖怪が出る場所など。
巴はスケジュール帳を眺めながら予定を立ててみる。

「でも、全部明日からでいいかな〜。」

8月の上旬、本格的な夏が始まっている。
巴は部屋の窓か外に目を向ける。
きれいな夕暮れの空が広がっている。

ここは居心地のいい場所だ。
都会にはない、空気と景色がある。
しかも、夏休みだ。

巴は畳の上に寝転がり、静かに目を閉じた。







<第一話・終>


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