非物語
□かなりペンシル
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ひ 【非】 一 [1] ( 名 ) @ 道理に合わないこと。不正。 ⇔ 是 「 −をあばく」 「 −とする」 A 不利であること。うまくゆかないこと。 「形勢−なり」 B あやまり。欠点。 「 −を認める」 C そしること。 「 −を唱える」 二 ( 接頭 ) 漢語の 名詞・ 形容動詞に付いて、それに 当たらない、それ以外である、などの意を表す。 「 − 能率的」 「 − 常識」 「 −公式」 [句項目] 非の打ち所がない ・ 非を打つ ・ 非を飾る ・ 非を鳴らす
(スマートフォン用アプリ『じしょ君』より抜粋)
其ノ壹 000
街談巷説、道聴塗説、怪異譚、都市伝説の類いといったもの…なのかどうかは判らないが、今も絶賛体験中のこの現象が微妙に奇妙で、稀少で異常だというのは間違っていないように思う。ただ、これがいわゆる怪異だとかいう大袈裟なものだとまでは思えないのが本音で、単なる思い過ごしだとか勘違い、気の迷いみたいに、そのうち意識しないでいられるほど日常に紛れて、忘れてしまえるんじゃないかとも思っている。
その微妙さ加減というのは、例えば、布団にくるまりながら目覚めを抗っている間のような、撮ったことも覚えていない写真の中の幼い自分のような、いつもより手前で道を曲がってしまった夕暮れの帰り道のような、違和感と言うには薄ぼんやりし過ぎている瞬間に似ている。そういう、具体的に何がとは説明できないけれども、いつもとはどこかが噛み合っていないような瞬間がずっと続いている感じを想像してもらえれば(想像がつくかどうかももはや微妙なのだが)今感じている違和感に概ね近いものになると思う。
さっきまで見ていたのに、起きた途端に思い出せなくなる夢みたいな、物心がつくかつかないかの時期にお気に入りだった玩具みたいな、家の近所のはずなのに見覚えのない場所みたいな、現実味の希薄な、なにか。確かに知っているのに覚えがないようなものが、もやもやと自分の中にわだかまっている。捉えようとすればたちまちに霧散して、何を追っていたのかすら見失ってしまう。
なんか気持ち悪い。
ああ、そう表現するのが一番合っているな。
その「違和感」はきっと気のせいで、そのうちその「噛み合ってなさ」すら日常の一部として馴染んでいくような気がするし、多分そうなってしまうのだろうと思う。だけれども、それを看過してはいけないような気もするのだ。放っておいても平気な気がする一方で、その指先の小さなささくれのような苛だちの種が何なのかを知る必要があるようにも思えてならない。だからずっと、「なんか気持ち悪い」のだ。
いつからそうなったのかは覚えていない。なんか分からないけれどちょっと気持ち悪いな、程度のことがいつのまにか起こっていて、同じような感想を少し前にも感じた気がして、ということを少しずつ繰り返しているようで薄気味悪くなった…みたいな。
要は、何もわからないのだ。
解らないから、判らない。さっきから繰り返し「思う」とか「気がする」とかを頻発しているのもそのせいで、あまりにも漠然としすぎていて形を成さないものをなんとか伝えようとして失敗し続けている感がある。つまるところ、何もわからないから、何も伝えられないだけなのだ。
この、微妙に現実味の欠けたような、夢の中に目覚め続けているような、希薄な違和感はいったい何なのだろうか。
何がきっかけだったかもわからない。ただ、ああ、なんかこれ、違う気がする、とか薄ぼんやり思ったくらいのもんだった。そんなことを考えていたら、
───ああ、それは怪異ってやつだね。
そう、断言されてしまったのだ。認定された途端、それは自分の中で怪異として認識されてしまった。
───ああ、これは怪異なのか。
そうなんだよ、怪異なんだよ。だから、なんとかされる前になんとか手を打たないとね。
なんかそんな夢を見たような気がする。そして、俺はまた、夢の中に目覚める。