小説

□純情ピーチ
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今日は初の主役で出演する映画の撮影の日だ。大分完成に近づいて来ている。共演者の皆とも仲良くなり、毎日楽しく撮影を行っていた。

ヒロインの美月ちゃんとのラブシーンはちょっと楽しみにしている部分もあって自然と口元が緩んでしまう。
やっぱり可愛い女の子とのこういう絡みは男としては堪らないよね☆



「え〜と……今日は……」


衣装に身を包み、今日の撮影内容を確認する。

「え……遂にキスシーンかぁ〜(笑)」


ついついにやけてしまい、慌てて緩んだ口元を手で隠す。



丹念にブレスケアを行い、身支度を整えて美月ちゃん……いや、ももちゃんが待っている現場へと足を速める。



入り口の扉を開くと髪の長いガタイの良い女の子が立っていた。周りにはこれから撮影と云うのに誰も居ない。



ん?



ガタイが良いだと?



美月ちゃんって背は高いけどスラッとしていて細かった様な……でも、目の前にいるのは肩幅が広く、腕なんて血管が浮いている……男?



「……え、……美月ちゃん?……だよね?」



後ろから恐る恐る声をかけると、その人物がゆっくりと振り返り微笑みを浮かべた。



「ツ」



思わず吹き出してしまった。全身が石のように固まり、その人物をまじまじと凝視してしまう。


だって

目の前に要るのは、、、、
良く知っている男だからだ。




「た……か……き……?……何やってんの?」



そう。


目の前には同じグループのクールで自分からは話を余りしない感じの男、高木雄也が映画の衣装を身に纏い妖しく微笑みを向けた。



「高木?……違うよ……ももだよ?」


あ?


何言ってんだ……こいつは!



制服と、茶髪のロングヘアーはこの作品の安達ももだけど、顔、声、体つきは高木雄也なので……。


訳が分からなくて立ち尽くす俺に、高木らしき人物がゆっくりと近づいて来た。




「……本当何なの?ふざけてる?もうすぐ撮影だから退いて?」


目の前で微笑みを浮かべる相手にげんなりしながら身体を反らそうとした瞬間、肩を強い力で掴まれ、半場強引に高木の方を向かされた。


「ん!」


目の前が暗くなり、高木のドアップが視界を奪った。


柔らかい感触が唇に伝わり、微かに漏れる吐息が耳に触れた。



「っちょッ……やめろって……ッ……」



ぐっと高木の胸を押し、自分から引き離そうと必死にもがくが、再度力一杯に腕を掴まれ、壁越しに誘導されてしまった。



まさか、メンバー……男に壁ドンされるとは……ていうか



「ッ……痛いって……離せよ」



女装した姿に思わずときめいてしまう自分を頭の中で呪いつつ、高木を睨み付けた。



「……高木?聞いて……ん、ふ、……や、」


俺の抵抗も虚しく、再度高木が唇を重ねてきた。

小さく吐息を漏らした際に開いた隙間に舌先を滑り込ませて来た。


「ふぁッ……やめ……ん……あ、はァ……ッ」

まるで生き物の様に口内を動き回り舌を絡められ、嫌でも甘い声が漏れてしまう。


てか、上手すぎじゃね?


次第に腹が立ってきた……。

そんな事を考えていると、ごそごそと掠れる音が聞こえ、目線を下に落とした。



「ば、バカッ……何して!?」


視線の先には服の中に手を滑り込ませて来ようとしている高木が映った。



「……何って?」


「手だよ!て!何処触って……」


あくまでもしれっと話す高木に訳が分からなくなり、またその整った顔を涙目で睨み付けた。



「……ね、伊野尾くんさぁ……あの女ともうキスした?」


急に高木の雰囲気が変わり、背筋が凍るかの様に重い空気が流れる。

多分、高木の言う『あの女』とは、ヒロイン役の彼女の事だろう。


暫く沈黙が流れたが、高木に掴まれいる手首が悲鳴を上げた。


「ッ……痛てぇよ……いい加減に…………ふ、」


言い終わらない内に、勢い良く唇を塞がれた。舌をめちゃくちゃに絡め、口内からは普段聞く筈も無い様な恥ずかしい音が聴覚を犯す。



「ンンッ……い、やぁッ……っ……ふ、んンッ……」


息をする暇も無い程に何度も何度も激しいキスをされた。


やっと解放され、ゆっくりと唇が離れる。お互いの唾液が二人を繋いだ。



「ッ……」


身体の力が抜けて俺は床にへたり込んだ。


高木は俺の前にしゃがみ込み、その長い指先で顎を上に持ち上げた。

俺は嫌でも高木の顔を見る形になり、目と目が合うも暫く沈黙が続いた。



「…………伊野尾くんさ、」

沈黙を破ったのは高木が
先だった。低く、甘い声が耳に触る。


「彼女にどんなキスしたの?どんな風に?触れるだけ?それとも……」



高木が何を言っているのか分からなかった。

ただ、怖くて言葉も出ずにいた。ゴクリと唾を飲み込む音だけが響く。


「駄目だよ……伊野尾くんは」


ゆっくりと高木が唇を開く。





「○○%.≫△y#♂♀△Ω」



「……え?」











ジリジリジリジリ!!!


目覚ましと携帯のアラームが部屋中に響き、慌てて飛び起きる。



ガンガンとリズムを打つように頭痛が脳内に響いた。



は?


今の出来事は鮮明に覚えている。だか、目の前には高木は居ない。

キョロキョロと辺りを見回すが、見慣れた自分の部屋だ。



(夢……?いや、夢だよな……)



急に肩の力が抜け、思い切り脱力する。



「てか、何であんな夢見たんだろ〜!あ〜!も〜!」


「高木……ムカつく」



段々と顔が熱くなる。


俺にとって高木は同じグループで最近話す様になった仲間……只それだけなのに。




よりによって今日はいたジャンの収録の日な訳で。

今朝の事もあるから高木に会いにくいし……気まずいな……。


そんな事を考えながら、楽屋のドアをそっと開け高木が居ない事を確認し中に入る。



「おはよ〜!何だよ?変な顔して」


「変な顔してんのは大ちゃんだろ?俺はいつもイケメンだし(笑)」

朝イチで絡んでくる有岡を軽くあしらい奥へ進んでいく。


「うッ……」


いた、居ました。

相変わらず格好いい事で……俺以外の奴に笑顔で話して…………。



「いやいやいや……!!」


何で俺が高木ごときにモヤモヤしなくちゃいけないんだ?いや、嫉妬とか無いから!



多分、凄い変な表情をしていたんだろう、周りのメンバーがちらちらと俺を見て心配そうな表情を浮かべている。



高木は俺の視線に気がついたのか、ゆっくりと此方に身体を向け目を細め、緩やかな笑みを浮かべた。



「おはよう、伊野尾くん」



「!!!」



その瞬間心臓がぎゅーっと痛くなった。顔全体が熱く燃えそうな感覚を覚えた。



俺は高木の顔がまともに見る事が出来ずにぶっきらぼうに返事をするのが精一杯だった。



これは、恋じゃない。普通に女の子が好きなはず……だから高木にドキドキする筈は無いから!


必死に自分に言い聞かせる。



伊野尾が、自分の気持ちに気づくまでそう遠くなかったが、それはまた別の話だ。





end

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