その他

□名も無き題名
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最近康二が冷たい。

いや、冷たいと言うよりも妙に余所余所しい。


普段は普通に話すし、ある程度のスキンシップも取る。

だが、目が全然合わない。


今も、俺の目の前でグループ最年少のラウールと楽しそうにふざけあっている。



ほんの少し前まではあの位置にいたのは紛れもなく俺だった。



「………っ」


あ。今確実に目が合った。

だが、康二は気不味そうに目を防せあからさまに顔を背けた。




「え、、……何で…!?」



ショックを通り越して怒りが沸いてきた。


それは、康二に?康二の隣にいる誰かに?


いや、俺自身にだ。


何故これ程までに康二に拒絶されるのか、分からずうじうじ悩んでいる自分にだ。



とりあえず、今日の仕事は終わった。


お化け屋敷の動画で必要以上に岩本君にべったりな彼を直視出来ずにいた。



「目黒……顔怖いよ」


隣に居た佐久間君が心配そうに声を掛けてくれた。


「……何?康二と喧嘩した…?最近ギクシャクしてるよな?」



「……いや、別に……」

佐久間君にすばり当てられかなり動揺し、目線が定まらず足元を見つめた。



「言いたくなければ良いけどさ……結構キツそうだったからさ、ちゃんと話してみるのも良いんじゃない?」



俺にしか聞こえない声で佐久間君が口を開いた。


大丈夫だと、俺の肩を軽く叩きいつもの優しい笑顔を浮かべた佐久間君に軽くお辞儀をした。



撮影後に帰る仕度をしている康二を見つけ呼び止めた。




「…………何?」



その顔はさっきまで誰にでも振り撒いていた笑顔ではなくて重く沈んだ表情でうつ向き小さく口を開いた。



「ごめん…目黒…今日は…」



「……康二きゅんさ、俺の事避けてるよね?」



「……避けてへんよ……」


確実に動揺している。

康二は焦ると鼻を擦る癖がある。もうずっと見てきたから分かる。



「避けてるだろ……俺…康二に嫌われたら……」


言葉が上手く出てこず、体が先に動き気が付いたら後ろから康二をきつく抱き締めていた。



康二の体が大きく強張るのが分かる。


「目黒……離せ……嫌や…」



腕の中で必死にもがくが、逃がさない様更にきつく力を込めた。


「離さないよ…康二きゅん……」

康二の耳元で囁く。

首筋に唇を寄せ、肩口に顔を埋める。



「……ごめん、、、暫くその呼び方は無しでええ?」


申し訳なさそうな声が聞こえた。



「……え……?」



多分、相当ひどい顔をしていたと思う。

康二の言葉の意味が分からなかった。

康二を正面に向かせ、その顔をまじまじと見つめた。



「……やっぱり……室君……」


その名前を聞いて康二の目が見開かれた。


室龍太。康二と共に関西Jr.を引っ張ってきた人物。

康二の元恋人。


お互いに個人の仕事が出来てすれ違いが多くなり、そこで康二のSnow Manへの移籍が決り別れを決めたらしい。




「室君の事……忘れられないんだ?……俺じゃ室君の代わりになれないもんな……」


早口でそう告げ、康二をまっすぐ見つめる。



「まだ……室君が好きなんだ?」


その瞬間に康二の瞳からボロボロと泪が溢れた。



「っ……何で……そんなん…酷いこと…言うん…」


ポタポタと泪が頬を伝い地面を濡らした。



「康………」



涙を拭おうと手を伸ばした瞬間に康二が身を捩らせ俺から離れる。



「…………ごめん…………」



そう告げると声を掛ける暇もなくそのまま走り去ってしまった。




それから2週間が経った。



あれから、更に気不味くなり、仕事中も不穏な雰囲気が漂っていた。

周りのメンバーも流石に気付いた様で焦りの顔を浮かべている。



流石に俺達の問題で皆に迷惑を掛けたくないし、康二との関係を修復したいし、想いも告げたいと焦っていた時だった。


撮影が終わり、楽屋のドアに手を掛けると康二の声が聞こえてきた。




「龍太君……………やっぱり…………………もう少し…………」





今一番聞きたくない名前が耳に入って来た。

どうやら室君と電話をしている様だ。
ぼそぼそとしか聞こえない声に耳を澄ましていると、切羽詰まった声で康二が放った。



「………好きや………好きでいるの、苦しい……」




嗚呼、、、




やっぱり、まだ室君の事が忘れられないんだ。



「………俺、めちゃめちゃダサいじゃん……」



室君と康二の間になんて入る隙間なんて多分無い。


通話はまだ続いていたが、その場に居ることが辛く、息が苦しくなり俺はその場を早急に立ち去った。





着替えることも出来ずに衣装のまま、スタジオを出て、側にあるベンチに腰を掛けた。



「めーめ!」


後ろから抱きつかれ全体重を掛けられる。


驚いて後ろを確認すると金色の髪がふわふわと頬を撫でた。




「なんだよ……ラウか……」



「………康二君じゃなくてがっかりした?」



ラウールから出して欲しくない名前を出され、俺の表情は強張る。



「………図星だ………ねぇ、喧嘩してるなら早く仲直りしてよね。雰囲気バリバリ悪いから‼」


ラウールは俺の隣に腰掛け、やや前のめりになりながらそう告げた。


「…………俺だって、康二とやり直したい……でも、もう無理……アイツの特別は室君だし……」



自分でも女々しいって分かってる。

気持ち悪いくらいうじうじ悩んでいるし、康二の顔を見るのも辛い。



俺が康二を諦めれば、康二は幸せになれるのではないか?




そう、ポツリポツリとラウールに話しているとラウールが怪訝な表情を浮かべ深くため息を吐いた。




「俺、康二君にハッキリ言われましたよ」


ラウールが真剣な表情で此方を見つめ唇を開いた。



『康二きゅん呼びは蓮だけって決めてんねん』



「………は……?」



あまりにも突然過ぎて頭が上手く働かずに、口を開けた状態で固まった。



「俺が康二きゅんって呼ぶと凄く怖い顔で睨むの……めめだけしか呼ばせないって酷くない⁉」


呆気に取られている俺を完全に無視して康二への文句を言うラウール。


「俺と要るのにめめの事ばかり話すし!良いな〜。愛されててさ、」




康二が俺を特別だと思っている?

だって、康二は室君が好きなんじゃ………。


だったら何で突き放すような真似をしたのか、全く分からなかった。



「………いつまでも意地張ってないでさ、行きなよ……康二君待ってるよ」



ラウールに手を引かれ、促された。


居ても立っても居られずに康二がいる場所へと向かった。




「康二君‼‼」


息を切らしながら楽屋のドアを乱暴に開けた。


「え、目黒…!?」



帰り支度をしていた康二が驚いた表情で此方を見つめた。

室君との通話は終わっていた様で携帯をポケットに突っ込み、そわそわと落ち着かない様子で口を開く。




「何や……忘れ物か…?……じゃあ、俺先に帰るから……」



そう言ってそそくさと俺の横を通りすぎようとする康二の腕を掴み、壁に押し付けた。


逃げられないように、両手で壁を押え足を康二の足の間に滑り込ませる。




「ちょ、、何?」



表情が強張り、明らかに怪訝な顔を浮かべ必死に俺の腕から逃れようとする彼を更に壁際に追い詰める。




「………好きだ。」



康二の瞳をまっすぐ見つめたった一言そう告げた。




「………は……?」


一瞬で康二の目が見開かれる。


震える唇で空気を呑み、必死に口を動かしている。



「俺は……康二君が好き……康二君がまだ室君の事好きでも、、俺は康二を諦めたくない」



息をするのも忘れ、早口で言い再度康二を見つめた。



「………俺だって……」



康二がぼそぼそと口を動かし空気を漏らす。



「俺も……蓮君が……好き……やで」



俺の裾を掴み、上目使いでそう発した。



「は、………だって……室君が……好きなんじゃ………」



康二の言葉の意味が理解できず、完全に脱力してしまった体を康二が優しく包み込んでくれた。


ふわりと甘い香りが鼻奥をくすぐる。



「………なんで龍太君が出てくるん?……もう、おまえだけやねん……」



頭を擦り付け、胸元に顔を埋める。


今までの甘え方以上に甘えてくる。


そっと康二の頭を撫で、更に疑問をぶつけた。


何故、俺への態度が急激に変化したのか……。


「………それは………」



落ち着きなく康二が天を仰ぐ。




「俺、蓮君が好きって最近気が付いてん……そしたら…急に恥ずかしなってな……どうしてええか分からんくなってな……。……ごめん……」

俺にしがみつきながら康二が号泣した。




「……マジでしんどかった……嫌われたのかと思った…」


ぎゅっと強く抱き締めると康二の肩が軽く上下し身を縮めた。



「俺さ、さっき康二が室君に電話してるの聞いちゃったんだよね……盗み聞きするつもりじゃなかった……悪い……」



そう、一番聞きたかった事。



「なんで…室君に好きなんて言ったの……?」



その言葉に康二が顔を背ける。

俺は、煮え切らない康二の態度に苛つき、康二の唇に無理矢理噛み付いた。



「ん!………っ……っ」



舌を突っ込み滅茶滅茶に絡ませる。



「っ……んん…ぅ……やめ…」


腕の中でじたばたと暴れる康二を逃がさぬ様に両手首をきつく握り、深く舌を差し込んだ。



「……っ…い、、いい加減にせぇよ……!!」


康二の怒鳴る声が聞こえたと同時に思いきり足を蹴られた。


脛に鈍い痛みを感じながら康二に視線を向ける。



「お前の事や…!!」


顔を真っ赤にして荒く呼吸を繰り返しながら康二が続けた。



「龍太君には……お前の事を相談してただけやねん!だから、俺は龍太君の事はもう吹っ切れてるし、いちいち嫉妬されてたら俺は……」


そこで言葉が止まった。


うつ向き小さく震えている。


「………好きや……蓮が……めっちゃ好き…だから…」


気が付くと目の前に康二のドアップが映っていた。


伏し目がちな目で、耳まで紅く染まり恍惚な表情をしている。



唇が重なる。


触れている時間はほんの数秒しか経ってないがそれはとても長く感じた。



「………俺の気持ち……ちゃんと分かってくれたん?」

上目遣いで此方を見据える彼が本当に愛しく感じ優しく抱き寄せる。


「………康二きゅん……好き」


耳元で囁き、首筋に唇を落とした。



「な、何や……いきなり……恥ずかしいやろ……」


モジモジと身体をくねらせ康二が照れくさそうに鼻を擦った。



その表情に思わず笑い声が漏れてしまった。



「……帰ろうか……」


俺は康二の手を握り、一歩前に足を伸ばす。


隣に康二が居てくれる。

それだけで安心感があった。


これからも、ずっと一緒に君と隣で歩んでいきたい。




そう強く思った。








END


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