その他
□お兄ちゃんガチャ
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それは異様な空間だった。
気が付いたら、俺、目黒蓮は真っ暗な場所に立っていた。
「何処だ……ここ……。」
キョロキョロと周りを見渡してみる。
しん、、と静まり返る部屋に背筋が異様に伸びる気がした。
次第に視界も慣れ始めた頃、ひとつの四角い箱が目の前に置いてあるのに気付いた。
「……お兄ちゃん……ガチャ……?」
説明文が書かれた看板をまじまじと見つめる。
「これで理想のお兄ちゃんに出会えます……?何だこれ?……バカらしいな…」
ふん、と鼻を鳴らし、目線を伏せる。
こんなのに騙されてやる奴なんて只の馬鹿だ。
どうせ、中は人形とかだろう。
そんな事を頭の中で考えながら、ガチャガチャの台から背を向けた。
帰ろうと足を伸ばした時だった。
ガコン、、と鈍い音がした。
後ろを恐る恐る確認すると、ガチャマシーンから、オレンジ色のカプセルが出ている。
「…は?俺…やって無いのに……何でだよ…」
異常な事なのに、そのカプセルが気になる。
無意識にそのカプセルを手に取り家に持ち帰った。
カプセルを開けると、バスボムみたいな形の物と、説明書が入っていた。
そこに書かれている事は、
@カプセルの中身をお湯を張った湯船に入れて一晩ふやかすと、翌朝お兄ちゃんの姿が出来上がります。
A体の一部にSS〜Eランクが書いてあります。これは、お兄ちゃんの能力を意味します。性格などは選べません。
Bガチャを引いた本人が命じれば「消去」されます。消去は死ぬのとは少し違い、またガチャに戻って次の人に引かれるのを待つことになるのでご安心下さい。
C本契約をするのを迷っている場合は、一週間で1000メダル払えばガチャをキープできます。
ガチャを引いた本人が気に入れば、「本契約」となり、その場合、自動的に記憶が調整され最初から本当の家族だったことになります。
一通り、説明文を読んだが、流石に馬鹿らしくなりカプセルを鞄の中に放り込んだ。
別に、兄貴なんて欲しくないし、居ても邪魔くさいだけだ。
だけど、この時の俺はどうしてもこのカプセルが気になって仕方がなかった。
どうせ、嘘に決まってる。
だけど……もしかしたら。
おもむろにカプセルを握ると、浴室に走った。
説明書の通りに、バスタブにお湯を張り、バスボムらしき物を投げ入れた。
ゆとくりと沈んでいくのを只、黙って見ていた。
気がつくと翌朝になって居た。
そのまま眠ってしまったようだ。
流石に寒い。
冷えた身体を擦りながら、ゆっくりと浴槽に近付く。
昨日のは、やはり夢だったのか、なんの変化もない浴槽を黙って見下ろす。
少しだけ期待した自分が馬鹿らしくなり、シャワーを浴びるため追い焚きのボタンを押した。
その時だった。
ぼこぼこと風呂の湯が沸き始め、もうもうと湯気が浴室を覆った。
「う、わ……何だよ…故障か……?」
慌てて近付くと、何者かに手を掴まれた。
「うわっ!」
自分以外居るはずの無いのに、まさか……。
目を凝らすと、俺よりも小柄な男が此方を見上げていた。
栗色の髪がピタッと額に貼り付いている。
子犬のような瞳が俺を捕らえる。
「…おめでとう。今日から俺がお前のお兄ちゃんやで」
柔らかい笑みを浮かべ男がそう告げる。
彼は自分の事を康二と名乗った。
まじまじと康二の顔を見つめる。
康二の胸元には、Bの文字が刻まれていた。
そっと鎖骨の下にある文字に指先を触れる。
康二は一瞬驚いた表情をしたが、またふわりとした表情に戻り唇を開いた。
「お前…名前は?俺だけ名前教えて自分、黙りなのは無しやで」
「……蓮……目黒蓮……。みんなからはめめって呼ばれてるけど……」
ぶっきらぼうにそう答え、裸のままの康二を無理矢理立たせた。
「おわっ……いきなり何?」
きょとんとした表情で慌てる康二の身体から目が離せなくなった。
細い身体にうっすらと筋肉が乗っている。
胸元、腹、腰と視線を滑らせた。
綺麗な身体だった。
「…………。」
ごくりと喉が鳴る音が耳に響いた。
「……めめ?」
康二の声にハッと我に帰る。
急いでタオルを康二に投げつけ、背を向けた。
「か、…風邪退くだろ。そんな格好でいつまでも居んじゃねーよ」
「……おおきに…でも俺今さっき目覚めたばかりやで?仕方ないやろ?」
ぶつぶつと文句を言いながらガシガシと頭を拭き、下半身にタオルを巻く康二を横目で捕らえる。
さっきから心臓が煩いほど鳴っている。
康二の無垢な笑顔を見ると、何とも言えない気持ちになる。
さっきだって、裸を見ただけで下半身が熱くなった。
「…めめ?……めーめ!」
気がつくと、康二の顔が目の前にあった。
「……可愛い……」
ぼそりと呟く。
いや、可愛いって何だよ。相手は男で、人間さえも解らない。
そう自分に言い聞かし首を横に振った。
「……で、契約するん?消去するか?………消去やったら、少し悲しいな…」
瞳を伏せ康二が項垂れる。
俺が消去と言った時点で康二は俺の前から消えてしまう。
そんなの絶対に嫌だ。
「契約する」
即答だった。
「ホンマ?……ホンマに?」
不安で一杯だった顔から一気に光が溢れだした。
「でも、、」
俺は康二の肩を掴み、顔を覗き混む様に距離を詰めた。
「……め……め……」
悲しそうな顔でこちらを見つめる康二の唇を軽く指で撫で、ゆっくりとその唇に自分の唇を重ねる。
びくんと康二の肩が跳ね上がる。
そっと離れると康二の頬を撫で、しっかりと目線を合わせた。
黒々とした瞳が大きく揺れる。
「契約はするけど、俺は康二を兄貴だなんて認めないから」
「……え……?」
更に康二の瞳が揺れ、透明な涙が溢れ、俺の手を濡らした。
続く。