小説
□嘆き
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トラウマと言うものは直ぐには消えない、、多分一生心の傷となり、人はそれに怯えながら生きて行くのだろう。
俺、山田涼介は17歳の時に親友を目の前で交通事故で失った。
原因は運転手の居眠り運転だった。
親友の圭人は弟と共に俺を見つけ、歩道を渡る際に横断歩道に突っ込んで来た車の下敷きになり絶命した。
当時10歳とまだ幼い弟も一命は取りとめたもの、左半身に重い障害を持ってしまい、左足は一生動かないと医師から絶望的な現実を下された。
「圭人……俺がお前の代わりに侑李を一生守るから……約束する。」
俺は圭人の亡骸にそう強く誓った。
それからは足の動かない侑李の送り迎えを欠かさず行った。
左腕もまともに動かない侑李の代わりに食事、着替えなど身の回りの世話も出来る限り行った。
侑李の母親や周りの大人は皆、口を揃えて「そこまで過保護にならなくても」とか、「所詮赤の他人なんだから……」等非難した。
俺は誰に何を言われてもそんなのどうでも良かった。
侑李を守る事が圭人に対しての償いに思えたから……。
それから三年の月日が経ち、俺の父親と侑李の母親が再婚した。
こうして俺達は義理の兄弟関係になった。
涼介は僕が足を引きずる度に怯えた表情をして直ぐに僕の世話をしてくる。
そう。強いて言えば大切なオモチャを壊された時の顔に近い感じかな。
涼介は過保護な程に僕の世話をしてくれる。
端から見たら異常。
依存に近い感じだ。
僕がいるせいで彼女も作らず、友達付き合いもせずに必ず僕の側に居てくれる。
それが嬉しかった。
いつしか涼介に対して尊敬とか憧れとは違った感情が芽生え始めた。
その時に親の再婚で涼介が義兄さんになった。
この関係がいつまでも続けば良いと思った。
そして16になった僕は涼介の勤める高校に入学した。
僕と涼介は義理兄弟で、教師と生徒の関係になった。
高校生活も段々と馴染んで来た。
友達も出来て、障害の事も受け入れてくれて身の回りの世話もしてくれる様になった。
放課後、クラスメイトとカラオケに行く事になり帰りの支度をしていると、涼介が声を掛けてきた。
「知念、帰るのか?今車出すから……」
涼介は僕が成長すると共に前の姓で呼ぶようになった。
多分、兄さんと重ねているのだろう。
それが悔しくて段々と涼介を困らせる態度ばかり取る様になった。
「義兄さん……」
「……学校では先生と呼べって言ったよな?」
軽くため息をつき涼介が僕の頭をぽんと軽く触れた。
「……今日は友達とカラオケに行くから、、」
その瞬間涼介の眉が持ち上がる。
「駄目だ。お前は自由に動け無いんだぞ……。俺がどんな気持ちで、、、」
涼介は今にも泣きそうな顔をして震えていた。
僕はそんな涼介を見るのが好きだ。
僕しか見えてない涼介。
僕に縛られている。
堪らなかった。
そんな事を考えると最高にぞくぞくした。
「……先生 、、足が痛い」
わざと左足を震えさせると涼介の顔が真っ青になり冷や汗が額を伝った。
ぎゅっときつく僕を抱き締めると決まってか細い声でこう言うんだ。
「ごめんな……ごめん……圭人……」
そう、涼介は僕じゃなくて兄、圭人を今でも見ている。
僕は只のオマケでしか無いんだ。そう思う度に悔しくなり涼介に対して憎悪が芽生えた。
夜、いつもの様に知念をベッドに寝かせ部屋を出ようとした時知念が低い声で囁いてきた。
「ねぇ……口でしてくれないの?」
上目遣いでじっとこちらを見つめる相手に、軽くため息を吐き唇を開く。
「……知念、、もうこう云うのは……」
その言葉に知念の表情が険しくなる。
「ははッ……それを言うんだ。教えてくれたのは義兄さんじゃない?」
そうだ。
男と云う生き物は思春期に入ると性に対して敏感になる物だ。
知念も例外ではなく、初めて精通した時に俺がやり方を教えた。
だが上手く手を動かすことが出来ず自分では処理する事が出来ない為に知念が求めてくる度に下の世話も進んで行った。
最近は口で精処理を求めて来る様になった。
「だからってお前も良い年なんだから……そういうのは自分で……」
「涼介が全部悪いのに何で被害者ヅラすんの」
俺が言い終わらない内に知念が言葉を被せて来た。
「…別にそんなつもり…」
歯切れが悪く口を割った。
「酷いよ……僕には何も無いじゃないか。でも涼介には自由がある……違う?」
「ちね……」
掛ける言葉すら見つからなかった。
暫く黙っていた知念が低い声で囁いてきた。
「僕を守ってくれるんだよね……義兄さん」
にこりと微笑むと俺の腕を軽く引き自分の胸元に引き寄せた。
バランスを崩した俺は知念にもたれ掛かった。
「ッ……」
痛むのか知念が眉をひそめる。
「ごめっ…」
慌てて知念の顔を覗き込む。
「……涼介」
そのまま知念と唇を重ねた。
「知念……」
知念から唇を離すとズボンの上に手を掛ける。
ズボンの上からでも熱が伝わる。
ゆっくりとズボンを下ろすと、目に飛び込んできたのは知念の白い脚。
そこには幾つもの痛々しい傷痕が残っていた。
それを目にする度に罪悪感で押し潰されそうになる。
息が苦しくなり心臓が破裂しそうになる。
「涼介…早くして」
そう呟くと知念は俺の頭を掴かみ、己の硬くそそり勃つモノを唇に押し付けた。
そのまま知念のぺニスを愛撫した。
涼介との関係はもう随分前になる。
僕の言葉に逆らえない事を利用して何度も涼介を抱いた。
このままの関係が続くと思っていた。
だが実際はそう上手く行かなく残酷な現実が僕を襲う。
クラスの女子が話していた事が耳に入って来た。
「山田先生と科学の中島先生ってデキてるみたい……放課後、二人で居るの見た人がいるって……。」
ボソボソと噂話を楽しんでいる。
僕の視線に気付くと気まずそうにうつ向いた。
「…………。」
不快感が全身を襲う。
涼介に触れて良いのは僕だけなのに……。
科学教師の中島はいわゆる二枚目で女子からの人気が高く評判が良い。
年の近い涼介とは一番気が合う様で何度か家に来た時もあった。
まさかとは思ったが妙な胸騒ぎがした。
放課後、下校時刻が過ぎ誰も居ない事を確認すると科学室へ足を運んだ。
室内からは微かだが話し声が聞こえてきた。
ドアに顔を近付けると耳を澄ませる。
次の瞬間息を呑んだ。
「あッ……やァ、、」
涼介の喘ぎ声と肌同士がぶつかり合う音が聞こえてきた。
「……や、裕翔ッ……気持ち……ん、、」
一際高い音で涼介が喘ぐ
。
ドア越しで涼介が達したのが分かってしまった。
今すぐに涼介を殺して仕舞おうかと想う程に悔しくて情けなかった。
だが一番許せなかったのが大切な人を他人に寝盗られてしまったのに笑っている自分だった。
嬉しい。
これでまた涼介を自分のモノにする理由が出来た。