斎藤一京都夢物語 妾奉公

□10.誕生、新選組
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夜、布団一式を新たに用意してもらい、斎藤の部屋の奥に夢主の布団を敷いた。
万一に備え入り口側に斎藤が寝てくれる。

数日前、夢主の為に座って一夜を過ごしてくれた斎藤。今夜からは部屋に布団が二組。
衝立に仕切られているとはいえ気まずくなるのは当然だ。二組の布団を交互に眺めて口をつぐんでしまった。
先ほどの天神の話が気に掛かり、余計に気まずい。
男なら当然かもしれないが、斎藤も女を抱く。知らない誰かの温もりを感じ快楽を愉しむ。分かっていたのに、知りたくはなかった。

「あの・・・おやすみなさぃ」

夢主は何も言えぬまま、夜の挨拶をした。
斎藤も気まずさを感じながら、しかし何かを弁明する理由も無いと特に何も話さずに眠りに就いた。

明くる朝、夢主が目覚めると斎藤は既に部屋を後にしていた。
葛籠や裁縫道具の場所が少し変わっている。
物の位置からして、衝立から奥を夢主が使えと言われているようだった。

一方で、朝稽古に集まった隊士一同を前に、近藤が改まって話をしていた。
そして、歴史に於いて、とても意味ある言葉が告げられた。

「我々は先だっての働きを認められ、会津藩より武家伝奏を通じ、新しい隊名を頂戴いたした!」

近藤のその横で土方が微動だにせず座っている。

「その名も『新選組』である!改めて京都市中警護の任を承った!!みな、心して勤めに励むように!!」

全てが夢主の告げた通りに動いた。夢主の最初に立ち会った幹部達は互いに顔を見回した。
その横では近藤の話を面倒くさそうに聞く芹沢が、鉄扇をバタバタと仰いでいた。

朝稽古が終わると、自然と土方の部屋に幹部達が集まった。

「決まりだな」

部屋の一番奥で土方が胡坐を掻いている。

「あぁ、当たりだ」

「まさか本当になっちまうとはな・・・」

「夢主ちゃんやっぱり嘘は言ってなかったんだ」

「どうすりゃいいんだぁ」

「あぁ!俺この先どうなるか知りてぇなぁ、嫁さん見つかるのかよ」

口々に呟く幹部達。
土方も何やら思案して顎を擦っている。

「あいつが何を知っているかは分からねぇが、女一人の言葉に惑わされたとあっちゃぁ、最強の剣客集団の名が廃る。何が起ころうが忠義を尽くし、戦うのみだ」

土方は意を決した。
将軍のお膝元、日野から出てきた京で、誰より忠義を尽くした武士になる。新しい時代に己らの力を見せてやる。
土方は曲げない熱い思いを口にした。

「おぉっ!それでこそ新選組副長!土方歳三だぁ!!」

「よっ副長!!」

皆で土方を一斉におだて、乗せられた土方も満更でもない顔を見せた。

「お前らも、あいつに先の事をほいほい聞くんじゃねぇぞ。聞いちまったら必ず迷いが出る。迷えば、死ぬぞ」

真面目な指示に居合わせた全員がゆっくりと頷いた。
一つ、夢主を平隊士にはなるべく接触させない事。
一つ、夢主を外に連れ出す際は必ず二人以上、可能なら三人の幹部が付き添う事を決めた。
そして夢主の意思をなるべく尊重するよう告げられた。
その言葉には幹部一同、揃って土方の顔を見てしまった。
 
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