斎藤一京都夢物語 妾奉公
□36.文を囲んで
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それからの夢主の文には句が添えられるようになった。
土方はそれが分かると毎回句を楽しみに、嬉しそうに文を開いた。
愛らしい句から一人で過ごす夢主の様子が伝わり、皆も喜んでいる。
「どれどれ・・・『静かなる 雪消ゆる時 きみ浮かぶ』・・・こいつぁ・・・恋の句、じゃねぇのか」
土方は読み終えると黙って文を見つめた。
書いた夢主本人にそのつもりは無かったのかも知れないが、読んだ者には恋の句としか伝わらなかった。
・・・誰の事を詠んだのか・・・
分かる気はするが、この場で顔を見ていいものか、土方は躊躇った。
「素敵ですね、きみ・・・と言うのが気に掛かりますけど。京ではまた雪が降ったのでしょうか・・・」
沖田は自分を思い出してくれていたら嬉しいのにと、一緒に雪遊びをした日を思い返していた。
「雪遊び、楽しかったですよね!斎藤さん」
そう言いながら沖田は後ろから文を覗き見ていた斎藤を見上げた。
斎藤も思い出しているのか、少し穏やかな面持ちをしている。
「そうだな、あれは愉快だった」
・・・冷たい雪の上ではしゃいで笑う夢主、雪に足を取られ転びそうだった夢主、無謀にも俺に雪玉を投げてきた夢主・・・
・・・雪に座り込み・・・俺に押さえ込まれた夢主・・・随分と困った様子で顔を赤くしていたな・・・面白い顔だったぜ・・・
斎藤は目を細め、あの雪の朝の一場面一場面を思い出していた。
「この文は・・・」
土方が顔をゆっくり上げ男達を見回すと、言葉が終わらないうちに沖田が手を上げた。
「僕、欲しいです!!いいですか!!」
「おっ・・・」
土方は返事をしつつ、斎藤を見た。斎藤は穏やかな表情で頷いた。
「いいですよ、俺は構いません」
「そうか・・・じゃぁ総司、大事にしろよ」
恋の句なんだから特別なんだぞとばかりに、土方は大事そうに手渡した。
土方もこの文には少し心惹かれていたようだ。名残惜しそうに懐にしまわれる手紙を見つめていた。