斎藤一京都夢物語 妾奉公

□37.手土産
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「な・・・にっ・・・」
 
声を出そうとするが、思うように口が動かない。
背後に感じる悪寒を確認したい。振り返ろうとするが、振り向けなかった。
体を動かせず夢主が焦っていると、急に視界が奪われた。

「ぁ・・・!!」

何が起きたのか、慌てるが手を上げて顔に触れることも出来ない。
ただ、布で目隠しされた事だけが理解出来た。すぐ後ろに男が立っている事も。
濡れた髪から雫が落ち続け、肩から背中までひやりと冷たい。

「うふふ・・・あちら側に付くには手土産が必要でね、全部見せてもらいましたよ。副長達のお気に入りと言うだけではない価値がありそうだ。綺麗な・・・女だ」

聞こえた声に鳥肌が立った。聞き覚えある恐ろしい声。
この体を襲う奇妙な感覚にも覚えがある。以前も与えられた感覚だ。

「俺は新選組にいるには退屈でね・・・人を斬り過ぎだって煩いんだよ、皆ね」

低い静かな声で耳元に囁かれ、夢主の肩がビクンと跳ねた。

・・・この声・・・身動き出来ない感じ・・・・・・鵜堂刃衛・・・どうして・・・

更に顔が近付く気配がして、夢主の耳に男の息が掛かった。
ねっとりとした息を吹き掛けて、男は呟いた。

「人質に使えなくても・・・売れるだろう」

「ゃ・・・」

後ろに立っているのが刃衛ならば、今の状況が相当危険だと分かる。
色欲に溺れた、ただの隊士の戯れではないのだ。

・・・売れるって・・・色町・・・全部見たって・・・お・・・風呂・・・見られ・・・ちゃったの・・・かな・・・

恥ずかしさで体が火照り出した時、背中に鈍い衝撃を感じて夢主は気を失った。

こうして斎藤の部屋の障子を開けたまま、夢主は姿を消した。 
持ち主を失った手拭いが、淋しそうに落ちていた。
 
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