斎藤一京都夢物語 妾奉公

□37.手土産
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どれ程の時が経過したか、薄っすら意識を取り戻した夢主。
気付けば猿轡をされていた。

だが体は自由を取り戻したようだ。先程の重みを感じない。
しかし手は後で縛り上げられており、相変わらず体の自由は無かった。
視界も遮られたままだが、音や肌に伝わるものから僅かに周りの様子を察することが出来た。
光を感じないのでまだ夜なのだろう。

体は横たえられていた。木の板のような硬く冷たい床の上だ。
屋外らしく、北風が容赦なく吹き付けた。

・・・寒い・・・

凍える冷たい風が風呂上りの濡れた体を冷やしていった。

「これでどうだ」

「こいつぁ、壬生狼の女じゃねぇか」

傍に人がいた。ひそひそと話す声が聞こえてくる。

「知っていたか」

「京の町で沖田と斎藤と歩いてるのを見たぜ、でかしたな」

「では約束通り・・・」

「分かった、分かった。取り敢えず引き受ける支度が要るからここで少し待ってろ、すぐ戻る」

会話から察するに、刃衛では無い男が去って行く。
幸いにも夢主が未来を知っている事実を刃衛は掴んでいないらしい。

冷たい床に転がった夢主は体の熱がどんどん奪われていった。
髪は濡れたままで、寝巻へ水分が容赦なく移っていく。

・・・はぁ・・・熱い・・・はぁ・・・

寒いはずなのに体が段々熱くなっていくのを感じた。
心なしか呼吸が苦しいのは刃衛の術の名残りなのか。

少し離れて聞こえていた声が消えると、土を踏みしめながら近付く足音が聞こえた。
どこかの寺か神社・・・そんな場所に捕らわれているのか・・・朦朧とした意識で夢主は考えていた。

「うふふ・・・楽しみですねぇ・・・」

刃衛は夢主の傍に立ち、呟いて笑った。


再び誰かがやって来た時、四半刻か一刻か、夢主には既に時間の感覚が無くなっていた。
刃衛は夢主から離れ、男と二、三の言葉を交わした。
それから体が持ち上げられ、折れ曲がった。刃衛の肩に担がれたのだろう。
夢主は恐怖で震えていた。体の熱が治まらず、冷や汗が止まらない。

・・・斎藤・・・さん・・・っ

目隠し越しに涙が滲んでいた。
 
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