斎藤一京都夢物語 妾奉公

□37.手土産
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この夜の旅館小萩屋では、窓辺で緋村が静かに座っていた。
外を眺めているのか冷たい空気に触れたかったのか、ただ静かに刀を抱えて座っている。

「おい緋村、入るぜ」

部屋の外から声が聞こえ、返事を待たずに扉が開いた。

「おい、ちょっと一晩二晩こいつを預かってくれ」

そう言うと飯塚は抱えていた女を部屋の中に転がした。
意識が無いのか投げられるままに女は転がった。

「ちょっと飯塚さん、俺はこういうのは・・・」

言いかけた緋村だが女の顔に見覚えがあり、言葉を止めて女の顔を見つめた。

「この女は・・・」

「そうだ、覚えてるか。新選組の女だ」

飯塚は顔を歪めて笑っている。いい物を手に入れたと嬉しそうだ。

「桂さんは知っているんですか、飯塚さんあなた、」

桂は人質を取るなど卑怯な手段を嫌う人間だ。それは緋村も同じだった。
飯塚はちっと舌打ちするが、緋村の言葉を遮るように慌てて言い訳をした。

「こいつは俺の仕事さ、桂さんにはこれから話す。だからそれまで少しの間こいつを見てろ。いいな」

「それにしても随分と濡れている・・・」

「あぁ?女が濡れてるたぁ、お前も随分厭らしいこと言うようになったもんだな」

「何がですかっ」

わざと聞き間違えた飯塚の言葉にむっとした緋村は、刀をスラリと抜きかけ、刃を光らせて見せた。

「おぉおいっ、冗談だよ冗談!風呂上りにでも連れてきたんだろう!少し熱っぽいから介抱してやれ!」

飯塚はよろけるように緋村から遠ざかり、両手を向けて反省する素振りをした。

「着替えは宿の女将さんに貰え。意識が戻ったら着替えさせてやれ」

「ちょっと飯塚さん!!」

「じゃぁな!引き取り先が見つけるまでだから頼んだぞ!」

飯塚は逃げるように部屋から出て行った。


「まったく・・・」

厄介な仕事を押し付けてと、緋村は渋々転がる女を視界に入れた。
後ろ手に縛り上げ、目隠しと猿轡、こんな女相手に流石にやり過ぎではないか。

「こいつ・・・」

緋村は近付いて顔を覗き込んだ。

「分かるか」

「・・・」

夢主は小さく頷いた。
それを見て緋村は夢主の体に触れた。熱い。何かを迷う余地が無いほど大熱だった。

「意識を失ってるんじゃない、ちょっとどころか凄い熱だ・・・熱で意識が朦朧としているのか・・・」

緋村は女の猿轡と目隠しを外してやった。

「・・・はぁ・・・はぁ・・・」

呼吸がとても苦しそうだ。大した話はしていないが、先程の会話も聞かれたかもしれない。
厄介だ。

「着替えを貰ってくる。逃げるな・・・と言っても動けないだろうがな」

そう言うと緋村は部屋を出て行った。
 
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