斎藤一京都夢物語 妾奉公
□37.手土産
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緋村が着替えを持って戻ると、熱の為眠りに付いたのか意識が飛んでしまったのか、夢主は目を閉じて動かなかった。
緋村は思わず顔を近付けて呼吸を確認した。
「おい・・・・・・息はあるようだな・・・」
どうすべきか迷ったが、濡れたまま過ごせば症状が酷くなる。
濡れた物を乾いた物に替えてやる事にした。
「悪いが着替えさせるぞ・・・」
声を掛けても反応は無い。ただ苦しそうな息だけが聞こえる。
「好都合か・・・」
下手に抵抗されるよりは良いか、緋村は夢主の手を縛る紐を解き、続いて寝巻の腰紐を緩めた。
下心は無い、ただ突然押し付けられた面倒を済ませるだけだ。
緋村は黙って濡れて張り付いた寝巻を剥ぎ取っていった。
「・・・っ」
流石に目のやり場に困る・・・
緋村は初めて目にする若い女の白く美しい体に戸惑うが、何とか役目を終えた。
「布団に寝かせてやるか・・・何で俺が・・・飯塚さんめ・・・」
緋村は恨めしそうに呟きながら、夢主を布団に運ぼうと抱え上げた。
「けん・・・しんっ・・・」
「っ!!」
抱え上げた途端、意識を失った夢主が緋村の名を呟いた。
何故知らない女が自分の名前を、しかも無意識のうちに呟いたのか。
緋村は怪しんで閉じた目を見つめた。
当然だが動く気配は無い。
布団に下ろすが、されるがままの体だった。
「軽いもんだな・・・」
女を担ぐなど初めてかもしれない・・・
緋村は寝かせた夢主の姿に見惚れてしまった。
横たわる寝巻姿の女、その白く真っ新な生地の下に隠れている、目にしたばかりの肌を思い出す。
「いかん・・・俺には関係ない」
緋村はすくっと立ち上がり、ずっと座っていた窓際へ戻った。
熱がある夢主に配慮して、窓は閉ざされた。
「しかし何故俺の名を・・・長州の仲間さえ緋村としか呼ばないのに・・・」
疑問に思った緋村は、眠る夢主を眺めて目を離さなかった。