斎藤一京都夢物語 妾奉公

□37.手土産
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見張り役の緋村も浅い眠りについた夜中、夢主は汗を掻き、喉が渇きを訴えて目を覚ました。

「うぅ・・・っ」

僅かに体を浮かすが、気怠さで体が重くて動けない。
夢主が目を覚ますと同時に緋村も目を覚ましていた。

「起きたか」

「あっ・・・」

朦朧とした意識の中で聞いた緋村と飯塚の話は、夢で見た幻のようだった。
今、目の前に緋村剣心が座っているのを見て、夢ではないと確信した。
濃い色の着物を纏った緋村は、薄暗い部屋の中で黒い影のように存在している。
抑揚の無い声は淡々としているが、どこか大人になり切れない響きを持っていた。

「ぁ・・・の・・・」

「なんだ」

緋村の目はとても冷たく、夢主に何の感情も示していない。

「汗を掻いて・・・喉が渇いてしまって・・・」

「・・・・・・ふぅ」

少しの間、緋村は腕を組んで夢主を眺め、小さな溜息を吐いて立ち上がった。

体に抱えていた刀を腰に差して部屋の入り口へ向かい、襖の前で止まって振り返り、夢主を冷たく見下ろした。

「動けないとは思うが、変な気は起こすなよ」

夢主が熱で赤く虚ろな目で頷くと、緋村は部屋を出て行った。


緋村が部屋を出てから戻るまでの僅かな時間、夢主は朦朧とした頭で今の状況を理解しようと考えた。

「刃衛に連れ出されて・・・飯塚さんがここへ・・・飯塚さんは確か桂さんと剣心を裏切る・・・刃衛は新選組を抜け出したんだ・・・」

寝たまま首を動かして部屋の中を眺めた。
小さな葛籠が一つ、片付いた文机が一つ。無駄な物は何もなく、散らかりようもない質素な部屋。
男一人、緋村が一人で使っているようだ。

「剣心・・・ひとつ傷だった・・・巴さんに・・・まだ出逢って無いんだ・・・」

急に寒さを感じ、おもむろに布団を引っ張った。
布団の中でも寒さは治まらない。寒気を感じていた。

「巴さんに出会う前にここから出ないと・・・大変・・・それに斎藤さん達・・・もうすぐ大坂から戻る頃だし・・・手紙が出せなかったらきっと気付くはず・・・探してくれるのかな・・・でも剣心見つかったら・・・今、剣心が見つかっちゃったら巴さんとの未来が・・・」

どちらか幸せな未来なのかは分からないが、勝手に変えてしまって良いはずが無い。
それでも彼がこれから背負う心と体の無数の傷を思うと、今の彼を放っても置くけない。

夢主は微かに潤んできた目を閉じて、緋村が戻るのを待った。
 
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