斎藤一京都夢物語 妾奉公

□49.池田屋事件
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隊が屯所へ着くと、凱旋した新選組の面々を迎えて夢主が飛び出してきた。
今までも捕縛騒動は幾度かあったが、夢主が血相を変えて飛び出してくるのはこれが初めてだ。

「みなさん、ご無事ですかっ!」

隊士達の顔も体も土埃や血に汚れた姿に構わず、夢主は駆け寄って皆の無事を確認しようと忙しく顔を動かした。

「夢主ちゃん、ただいま」

夢主に気付き斎藤や沖田達がそばに寄ってきた。
斎藤達に目隠しされて、後ろを戸板に乗せられた重傷者や絶命してしまった隊士が運ばれて行く。

「沖田さん、ご無事だったんですね・・・ご無事で・・・」

「はい、ちょっと危なかったですけどね、ははっ」

「もぉ・・・笑い事じゃありません・・・でも・・・良かったです・・・」

沖田が歩いて帰屯できた現実に、夢主は心の底から安堵した。
緊張から解放された夢主の手は少し震えていた。

「斎藤さんも、ご無事で・・・なによりです」

「あぁ」

夢主に応える斎藤だが、何やら心ここにあらずといった歪んだ笑みを浮かべていた。

「斎藤・・・さん?」

「フッ」

夢主を一瞥し目を細めると斎藤は先を行ってしまった。

「どうしたんですか・・・斎藤さん・・・」

「さぁ・・・何かあったのかな・・・」

沖田も斎藤の異変の理由が分からず、共に首を傾げた。

「あっ!藤堂さん!!」

その時、夢主は運ばれてくる藤堂を見つけた。
戸板の上に横たわり、顔も体も血汚れている。

「わっ、見つかっちまった!みっともねぇなー!!俺は平気なんだぜ?!でも近藤さんが大事を取れってうるさいからよー!!」

藤堂ははにかんで戸板の上で体を起こし、体の無事を夢主に見せようと手足を動かした。

「わ、分かりましたから、安静になさって下さいっ!額に血の痕が・・・」

元気に笑う藤堂だが、額から流れた血の痕が残っていた。

「ははっ、鉢金の事ありがとうな。まさかと思ったぜ」

きまり悪そうな苦笑いを残して、藤堂は傷の手当に運ばれていった。

「みなさん・・・命がけで・・・」

「そう気にすんなよっ、俺達の成すべき事をしているだけさっ」

「永倉さんっ!」

ふと夢主の横を通り過ぎながら言葉を掛けたのは永倉。
左手に巻かれた白い手拭いが血で真っ赤に染まっている。
立ち止まることなく永倉は傷の手当に立ち去った。

「みんな、大丈夫ですよ」

顔を赤くして涙を溜める夢主を、そばにいる沖田がそっと宥めた。

「さぁ、こんな血生臭い所にいないで夢主ちゃんは部屋に戻ってくださいっ、ふふっ」

「はぃ・・・」

血のついた顔で優しい笑みを見せる沖田。
不釣り合いな二つを目にした夢主の胸の奥がきりきりと痛んだ。
 
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