斎藤一京都夢物語 妾奉公

□52.仕置きと罰
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「謝る相手は・・・俺じゃねぇだろう」

僅かに下げた頭を上げると、腕を組む土方が目に入った。

「もし本当にどうしても傍に居られねぇぐらい辛い夜があるなら、総司に告げてから行け」

「えっ」

先に驚いたのは沖田だった。

「沖田君にですか」

「そうだ。総司、その時はお前が傍にいてやれ。夢主の気も紛れるだろうよ。戻るか戻らねぇか分からないと、総司もお前の部屋に寄りつけねぇだろう」

驚く沖田の気持ちを解釈するように土方は丁寧に語った。

「大坂の時みてぇに鬱々とされちゃあ堪んねぇからな。その時は仕方ねぇ。だがちゃんと夢主の事も気に掛けてやれよ。避けるんじゃねぇ」

斎藤はばつが悪そうに口元を歪めて頷いた。
いつもの斎藤なら舌打ちでもしていただろう。

「さぁて、話が分かったんなら夢主を呼んでくるぜ。明日は三人揃って謹慎だ!揃って頭冷やしやがれ!!・・・ちょっと待ってろ」

そう言うと土方は立ち上がり、自ら夢主を呼びに向かった。


「斎藤さん、大丈夫ですか。本当は通いたかったんでしょう、太夫さんのところ」

「言うな」

斎藤と土方の遣り取りを横目に困惑していた沖田だが、こんな状況でも意地悪く揶揄った。
こんな素直に反省して落ち込む斎藤はなかなか見られまい。
大坂での闇を抱えた時と、太夫と過ごした朝の清々しさを比べると、気持ちを突きたくなってしまったのだ。
それに、突けば元気も出るだろうと思った。

「ははっ!否定しないんですか。泥沼に足突っ込んでますねっ。今度また二人で呑みましょうよ!」

「あぁ・・・またな」

斎藤は申し出を断らなかった。
振り回してしまった沖田にここらで話を通しておくのが筋であり、自分にとって得策だと思えた。

「斎藤さんが夢主ちゃんに捨てられるのも時間の問題かなぁ〜・・・」

沖田はわざと楽しげに言い、斎藤をちらりと見て笑った。

「ちっ・・・」

捨てられるも何も、まだ何も無いのだ。
言い返したかったが、これ以上沖田に詮索されるのを嫌い、黙って夢主を待った。


土方は自分の部屋に戻ると、斎藤の部屋まで自ら連れて行くつもりで夢主を呼んだ。

「待たせたな」

「いえ・・・お手間おかけして・・・本当にすみません・・・」

「もういいさ。・・・それより、お前よ、・・・恋仲になっちまえよ」

「・・・えぇっ?!」

突然の助言に顔を真っ赤にして仰け反る夢主、土方は真剣だった。

「俺が口出しする事じゃねぇが・・・もぅいいじゃねぇかよ。そうすりゃぁ、あいつだって、外によぉ・・・通わねぇだろう」

「そっ、そんなっ!!そんな事、出来ませんっっ」

暗い中でも分かるほど赤く火照った夢主、慌てて手をぶんぶん振って言い返した。

「何の為に休息所があると思ってんだ、そういう事だろうよ」

「なっ、何をっ・・・だって、まだ何も・・・それに・・・ま、まだっ」

「まだ、まだ、って、もうここに来て一年経つだろうよ。一年も寝食共にして、相部屋でよ、酷だろう」

「そ、そんな・・・」

確かにそのせいで惹かれていったのかもしれないが、そんな目的で部屋を共にしている訳ではないのに。
夢主はますます赤くなった。

「お前のいた時代はどうなってんだ。そんなに違うのか」

突然顔を寄せて事情の違いを問いただしてきた。
ここまで頑なに嫌がるのは習慣の違いだろうかと思ったのだ。

「そ・・・そんなの、個人の差が大きくて・・・出会ってすぐの人もいれば・・・一年二年・・・かけて仲良くなって・・・恋仲になってからも祝言挙げるまではって方も・・・」

「何だよ、今と変わらねぇじゃねぇか」

真っ赤な顔で話す夢主から顔を離すと呟いた。

「じゃぁいいじゃねぇか。そうなりたくない理由は俺にも言えねぇのか」

「それは・・・言えなくは・・・でも、言いたくありません。斎藤さんの事だから・・・」

沖田に話を聞いてもらった夢主、斎藤の個人的な出来事をこれ以上誰かに広めたくなかった。
 
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