おつまみ

現】いつの時代の朔日か
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それぞれ形の違うグラスに異なる酒が入っている。
手の大きさも違う三人だが、グラスを掲げると何故が手の並びがしっくり感じるのが夢主には不思議だった。

「一さん、お誕生日、おめでとうございます」

「ありがとう」

昔の自分なら言わなかったような言葉も口に出来る。
時の流れも悪くは無いな・・・
斎藤はそう思いながら酒を含んだ。

「ふふっ・・・」

酒を含んだ途端、夢主がにこにとこしまりの無い笑顔で声を漏らす。
カウンターの椅子から転げ落ちるのではと、斎藤は思わず小さな背に手を添えた。

「大丈夫ですか。・・・酒に弱いのは相変わらずだな」

「ぇっ・・・?お酒ですか・・・好きですよぉ・・・一さん・・・」

ケーキを口にする前に、そのままふわふわと机に臥せってしまった。
三人を見守るマスターも苦笑いだ。
夢主の服にケーキが付かぬよう、マスターは皿をそっと端に寄せた。

「申し訳ございません、お酒に弱いお客様と知らず」

「いえ、伝えなかった沖田君が悪いんです」

そう言いながら斎藤は早くも酔い潰れんとする夢主の顔を嬉しそうに眺めていた。

「折角ですからケーキ食べてくださいよ斎藤さんっ!うん、美味しい〜!!」

主役にそう勧める沖田は、先にケーキを味わっている。
マスターの手前もあり、斎藤は仕方なくフォークを手にした。
口にすると、沖田の言う通りあっさりと食べやすい。
ほんのりと残る程度の甘さが丁度良かった。

「確かに美味い。さすがはマスターのお兄さんだ」

マスターはグラスに磨きを掛けながら、嬉しそうに微笑んでいる。


「久しぶりだな、こんなに甘い想いをしたのは・・・」

「はははっ、過ぎた誕生日プレゼントでしたかねっ?!!」

甘い表情で夢主を見つめる斎藤の視界に沖田が割り込んできた。

わざわざ引き合わせた理由は沖田自身にも分からない。
ただ、夢主が望んでいる気がしたのだ。

たまの食事の約束、会えば夢主はいつも何かを、誰かを探しているような仕草。
満たされない淋しげな瞳をしていた。
きっとこれで、夢主は心から笑う日々を過ごせるだろう。後悔はしていない。

「全くだ。過ぎた贈り物だぜ」

斎藤が夢主の髪に触れた。
ゆっくり頭を撫でると、夢主は笑うように目を閉じたまま、ぼそりと呟いた。

「また会えるなんて・・・一さん・・・うれしいです・・・」

驚いて手を止めた斎藤は、生唾を飲み込んで気を落ち着かせた。
眠っている。
斎藤はそっと顔を寄せた。

「俺もだぜ、夢主」

「・・・ふふっ」

耳元で囁く斎藤の息をくすぐったく感じたのか、夢主は小さく笑い、可愛い寝息を響かせ始めた。

「変わらんな・・・」

「えぇ、全く。・・・斎藤さん」

「なんだ」

「お誕生日、おめでとうございます」

「あぁ」

ニッと口角を上げ、改めて男二人でグラスを掲げた。

「こんな祝いなら悪くも無い」

特に意識することの無かった一年の始まり。
生まれた日というだけの一月一日。
新年早々、心地よく酔いながら斎藤は初めて自らを祝った。


──完──
 
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