斎藤一京都夢物語 妾奉公

□59.物は試し
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「はい、斎藤さんの分です」

「すまんな」

畳み終えたのを確認すると、斎藤はわざとらしく気付いた素振りをした。
沖田もにこにこと自分の分に手を伸ばす。

「こちらが沖田さんです」

「ありがとうっ!えぇっと・・・」

綺麗に畳まれた物のそばに、くしゃっと丸められた白い布が置かれている。

「ふ、褌くらいご自分でなさってくださいっ・・・」

頬を染めてぷいっと顔を逸らす夢主、斎藤はフッと冷笑し、沖田も苦笑いをした。
斎藤の褌が無いのは知っていたが、沖田のがあるとは夢主は考えていなかった。
今まで受け取ったことが無いのは偶然だったらしい。

「あぁっ、ごめんなさぃこれはこれは・・・僕に直接渡してくれたらいいのに、って小姓さん達もこれくらい畳んでくれたって・・・」

「ご自分でっ!」

小姓のせいにして誤魔化そうとする沖田を、赤い顔の夢主はきつく叱りつけた。

「あははっ、敵わないなぁ。分かりましたっ。へへっ・・・」

沖田は歯を見せて、珍しく困った顔で笑った。母に怒られた子供の顔だ。
怒られると分かっていて悪さをして、見つかった時の誤魔化し笑いに似ている。
しかしすぐに思い直した沖田は悪戯顔に変わった。

「でもいつかは夢主ちゃんに畳んでもらいますからね、ふふっ」

「沖田さんっ!!」

「あははっ、そのうちにねっ!」

お嫁さんになったらそれ位は当たり前でしょう、と言いたかった沖田。
怒って更に赤くなる夢主を笑い、洗濯物を置きに自室へ向かった。

眺めていた斎藤もにやにやと笑っている。

「さっ、斎藤さんはご自分でなさるのがお好きなんでしょう」

厭らしく笑う斎藤から頬を膨らませて顔を背けるが、フフッと笑う声に顔を戻してしまった。

「いつか教えてやるよ、皺無く干して畳む方法をな」

ククッと口角を上げる斎藤、揶揄われていると分かり、ますます顔が熱くなる。

「け、結構ですっ!きっとご自分でなさらないと満足できませんよっ」

「フンッ、お前は器用だからな、すぐ出来るようになるさ」

「いっ、いいですっ!!いつかは・・・いつかは覚えるかもしれませんけど・・・」

ぼそぼそと恥ずかしそうな小さな声を斎藤は笑った。

「そうだな、そのうちになっ、ククッ」

夢主は応じず、自分の洗濯物を片付けるために立ち上がった。
斎藤も揶揄うのを終えて立ち上がり、葛篭に荷物を入れる。
そんな斎藤の姿を夢主は横目でちらりと見た。

・・・い、いつかは同じ場所に・・・同じ箪笥に片付ける日が来るのかな・・・

ほんのりと赤い頬でそんなことを想いながら、少ない荷物を片付けた。
 
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