斎藤一京都夢物語 妾奉公

□59.物は試し
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それから数日、藤堂が江戸へ向かうという話が夢主の耳に届いた。
隊士の補充の為だ。

夢主はどうしても気になり、斎藤に藤堂と話す時間を貰えないかと願い出た。
何もするつもりは無い。ただ江戸に向かう前に声を聞いておきたかった。
藤堂が仲介し連れてくる人物が、やがて新選組を二分する。気にならない訳がない。

場所はいつもの休息所。
藤堂が来る前に、斎藤は夢主から話を聞いていた。

「藤堂君が江戸でどうにかなるのか」

「いぇ、そういう訳では・・・ないのですが・・・」

夢主は下を向いた。
どう説明して良いか分からない。

「何か危険があるとか、そういう事ではないんです。でも聞きたいお話があって・・・」

ちらりと斎藤の脇に置かれた刀に目をやって夢主は続けた。

「あの、剣の流派ってありますよね。この時代で同門というのは義兄弟も同じ、それほど繋がりが深いって・・・思ってるんですけど、実際もそうなんでしょうか・・・斎藤さん」

斎藤を見上げた。どちらかと言うと一匹狼の斎藤。
一般の師弟の関係が当てはまるとは夢主も思わない。

「そうだな。俺の場合はその範疇ではないがな。まぁ普通はそういった関係が当てはまる。事実、沖田君は近藤さんを父のように、土方さんを兄のように慕っている。腕は沖田君が上かもしれんし入門の時期も色々と複雑な人達だがな。井上さんも遠縁だが実際血筋だし、関わりは深いだろう。それが藤堂君とどう関係がある」

「江戸で・・・隊士の方を募集しますよね。自然と知り合いに声を掛けると思うんですけど、それで一定の流派の人間が増え過ぎるとやっぱり・・・力関係が崩れてしまうと言うか・・・」

斎藤は夢主の言いたいことを察し、なるほどと顔に表して話を聞いている。

「試衛館のみなさんが中心になっているのが今の新選組だと思うんです。そこへもう一つ大きな派閥が出来てしまうと芹沢さんの時みたいに・・・」

「成る程、言いたいことは分かる。もう一度繰り返すと言うのか」

断言出来ず夢主は斎藤を上目で見つめながら顔をしかめた。

「だが藤堂君を信じるしかあるまい。今の時点で誰それは駄目、誰それは良しとは言えん。任せるからには信じねばならん。江戸で顔が効くのは事実、忙しい土方さんの変わりに近藤さんも追いかける」

「近藤さん・・・」

人が良く、また弁の立つ人間に気をよくして受け入れてしまう印象がある。
豪胆で立派な人物だが、人を選別せず、来る者は拒まず受け入れてしまう心配がある。

「そうですね・・・斎藤さんの仰る通りです。藤堂さんはとってもいい人です・・・」

藤堂の名前を口にした時、返事をするようにその本人がやって来た。

「よぉーお!待たせちまったな!斎藤君と・・・夢主っ。よぉ・・・へへっ」

夢主がいると聞いていなかったのか、藤堂は僅かに驚いて照れ笑いを見せた。
 
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