斎藤一京都夢物語 妾奉公
□63.伊東甲子太郎
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「斎藤さん、歴史通りなら伊東さん達と出た後、数ヶ月で新選組に戻ります。だからその間は別の場所で隠れていようと思って・・・」
「何故だ」
「だって不自然じゃないですか、その・・・」
斎藤を慕っている自分が、斎藤が出て行った後もずっと屯所に残っているのは不自然ではないか。
間者である、帰屯の予定がある。この二点を知らねば不自然だ。
夢主はどう伝えて良いか分からず、頬ばかりが赤くなった。
「フン、まぁいい。確かにずっと世話になった男が出て行くならついて行くのが自然だな。一緒には来ないのか」
「えっ」
夢主は自分が考えもしなかった発想に声を出して驚いた。
「それは・・・伊東さん達の中に入るのは・・・怖いというか・・・」
「そうか。そうだろうな」
斎藤が一緒でも四六時中そばにいられる訳ではなく、助けてくれる土方や沖田がいないのだから不安は必然だ。
夢主は斎藤の言葉に頷いた。
「それで何故酒屋に」
「探したい人が・・・前に一度すれ違った、白い外套の背の高い男の人を覚えていますか」
「あぁ、あの手練か。関わりない男では無かったのか」
「この動乱に全く関わりの無いお方だから頼りたいんです・・・」
「葵屋とやらでは駄目なのか」
「・・・出来ません・・・」
葵屋と言われ真っ先に蒼紫と操の姿が浮かんだ。
蒼紫との数度の接触は、これ以上関われば間違いが起こりそうな嫌な予感を充分に与えていた。
それだけは避けたい。
蒼紫がいつ江戸城に入るのかは分からない。
年齢から逆算しても、初めて出会った時は恐らく十かそこら。
明確なのは、齢十三で江戸城で当時薩摩藩の隠密だった式尉を倒したこと。
葵屋の皆と少しずつ距離を縮めるにしても、蒼紫が京を発つまで時間があるかもしれない。
一度でも蒼紫と近付いてしまえば・・・。
夢主は藤の花を届けに来た蒼紫の姿を思い出した。
若い、女を知らない蒼紫が初めて仲間以外で関わったのが自分だと、あの時の複雑な表情から感じ取れた。
観察と言っていた。
あの時の蒼紫の目は、何度か見た目に似ていた。
男達がたまに見せる、瞳に熱を宿した目だ。
出来ない・・・
夢主は直感で、そばには近寄れないと感じた。
「蒼紫様には近付けません・・・」
「そうか」
様、とは一体どんな心境なのか。
夢主が自然に口にした様付けの名の意味を斎藤は考えた。
「まぁ子供とはいえ男だからな。そう幼くも無い、近付かなくて良いだろう」