斎藤一京都夢物語 妾奉公

□63.伊東甲子太郎
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「はい。だから、あの酒屋で会った人を探したいんです。手掛かりはお酒が好きってことしか・・・もしかしたら諸国を旅しているかも・・・」

「酒屋は張り込めばなんとかなるだろう。京にいなければ厳しいがな。だが見つけた所でどうにかなるのか」

何か策でもあるのか、と夢主を覗き込んだ。

「・・・ありませんけど・・・その時が来ればなんとかなりますっ!」

「フッ、適当だな」

「すみません・・・」

「まぁいい、探ってみよう」

「お願いします。ただ、絶対にお声を掛けちゃ駄目ですよっ!もの凄く嫌っているんです・・・京の騒ぎを・・・」

権力争い、倒幕、佐幕、比古清十郎が忌み嫌う争い。飛天御剣流の理に反する行い。
夢主は言葉を京の騒ぎとすり替えて斎藤に伝えた。

「分かった。只者ではないと感じたからな。下手に隊士は減らせん。見つけても動くなと伝えておこう。俺も探りは入れるが皆忙しい。時間が掛かりそうだな」

「よろしくお願いします・・・ふふっ」

斎藤が任せろと得意げな顔を作ったので、夢主は笑ってしまった。


屯所に戻る途中、早速酒屋に立ち寄って店の主人に聞き込みをした。
だが暫く外套姿の偉丈夫は見ていないと言う。
あれだけ目立つ男だから、主人もしっかり覚えていた。間違いあるまい。

屯所へ戻ると皆、新しく入った伊東の話題で持ちきりだった。
幹部達も例外ではなく、女みたいだ、北辰一刀流の使い手らしいぞ、気に入っただの気に入らんだの、好き勝手に盛り上がっている。

斎藤は土方の部屋へ寄るからついでに来いと、夢主を連れて行った。

「土方さん、斎藤です」

中に入ると、土方は騒がしい連中は何とかならんのかと渋い顔をしていた。

「皆、どんな男か探りかねているのでしょう」

「そうだ。まさにそれだ。斎藤、お前少し近付いて探ってくれ」

そんな大事な話を目の前でされ、斎藤の後ろに控える夢主は緊張した。
外に洩れないよう至って小声でだが、誰かに聞かれたら大変なのではと気が気でない。
だが入ったばかりの人間が素性を探られる、その程度のことは向こうも承知だと土方は全く気にしていなかった。

「藤堂もどういうつもりであんな奴を寄こした。張の本人は募集を続けるってぇ口実で戻って来やしねぇ」

胡坐を掻く土方は膝に肘を重ねるような、随分と崩した姿勢で苦々しい顔つきをしている。
 
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