斎藤一京都夢物語 妾奉公
□64.雪の帰り道
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「子供か」
「全くおかしな子でしたね・・・それにしても変なことを言いましたね」
「お前らなんかに何がわかる・・・幸せそうな・・・お前らに・・・あの子っ」
子供の言葉を繰り返した夢主は急に振り返った。
んっ、と夢主を見下ろす斎藤は不思議そうに首を傾げた。
・・・あぁ・・・伝えてはいけないのかもしれない・・・あの子は縁、雪代縁・・・斎藤さんがいずれ捕らえる為に動く人・・・剣心の、義理の弟・・・
ゆっくり俯き、斎藤に告げるはずだった言葉を飲み込んだ。
「あの子、きっと辛い目にあったのでしょうね・・・」
・・・もしかしたら、これから・・・巴さんはまだ生きているかもしれない・・・
「私にはどうすることも・・・」
「そうだな、あの少年に何があったかはわからんが。京の町で何かが起きたというのなら、俺達も気を引き締めねばならんな」
「えぇ・・・」
京の治安を守るのが使命である新選組幹部の斎藤と沖田は、少年が消えた道の先を眺めていた。
結局、比古清十郎の情報は得られなかった。
酷く冷える。
湯屋へ辿り着くとじっくりと温まって帰ろうと、斎藤達も中へ入った。
湯屋の中でさえも斎藤達は注意を払い比古の姿を探すが、当然ながら見つからない。
ただ体を温めて外に出るだけだった。
「お待たせしましたっ・・・体、冷えちゃいませんでしたかっ」
小走りで中から出てきた夢主の息も、外で待つ斎藤達の息も白くなってから消えていく。
湯上りの体は温まり、ほんのり赤く色づいている。斎藤達の肌は既に落ち着いていた。
「本当に寒いですね・・・お待たせしてごめんなさい」
「いや、俺達も出てきたばかりだ。気遣うな」
「えぇ、冷えないうちに帰りましょう!」
白い息を吐きながら頷くと、来る時よりも気持ち寄り添って歩いた。
体が少しでも近い方が暖かい気がしたからだ。
帰りを急ぎ歩く三人の目の前にちらり・・・白いものが通り過ぎた。
「雪・・・」
夢主は立ち止まって空を見上げた。
つられて沖田も足を止めて空を見上げる。
「初雪・・・ですね、寒いわけです」
キンと冷えて頬を痛くするほど冷たい空気に乗り、空からちらりちらりと小雪が舞っている。
数歩先で立ち止まり振り返った斎藤も雪雲に目をやった。
「行くぞ、冷える」
斎藤に促され、夢主と沖田は再び歩き出した。