斎藤一京都夢物語 妾奉公・弐

□104.燃える夜空
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「あぁ、そうは言っても美味しいですね、動いた後のお酒とは」

「そうだろう」

「比古さん・・・夢主ちゃんが貴方にとっても特別とは・・・どんな意味があるのですか」

沖田の問いに比古は楽しげだった顔を固まらせ、目を反らした。

「昼間の話だが、冗談だぞ。俺は私情の為に剣は振るわねぇ。すまなかったな、少しばかり脅し過ぎた」

「夢主ちゃんを守れなかったら僕を殺しに来るという話ですか。でも・・・それはそれで、構いませんよ。だって僕も・・・そんなの自分が許せませんから」

「おいおい、冗談だと言うのに」

「いえ、必ずと誓っています。命に代えてもと・・・でも・・・」

「命懸けは構わんが命には代えるなよ、お前の死は夢主の悲しみと危険に繋がるだろう」

「大丈夫です、しっかり心得ていますよ!」

「ならば良いが」

「それで、先程のお答えは?」

「あぁっ?夢主のことか。お前に教える気は無い。義理も無かろう」

「えぇっ、随分じゃありませんかっ!散々僕を痛めつけて夢主ちゃんのことで脅してっ!」

「おいおい、お前こそ随分な物言いだな、お前、段々馬鹿弟子に似てきたぞ!」

「僕が似てきたのではなくて、貴方がそうさせているんではありませんかっ」

「何をっ」

言い返そうと睨みつけるが、もしや図星ではと自ら察してしまい比古は溜め息を吐いた。
目の前の無邪気なこの男、馬鹿弟子と違うのは、何故か憎みきれない部分だ。馬鹿弟子相手ならば一方的に罵って笑って済ませられるというのに・・・幼い頃から共に過ごした弟子を思い出してしまい比古は首を振った。

「えぇい、やめだ。馬鹿馬鹿しい」

「ははっ、何だか斎藤さんみたいだ」

「斎藤?」

「ふふっ、はい。斎藤さんと話しているみたいで何だか楽しいや」

「こらこら、急に打ち解けるんじゃねぇよ」

「すみません、ついっ。でもいいなぁ・・・夢主ちゃんじゃないけど、僕もまた斎藤さんに会いたいや」

「そうか。仲間・・・友、か」

「あはははっ!斎藤さんが僕の友かぁ・・・考えたこともありませんでしたよ、ははははっ、仲間なら分かりますが、友とはまた・・・思いつきません」

くくっと喉を鳴らした沖田が腹を抱えて大声で笑い始め、比古も頬を緩めた。

「自由でいいな、素直な男め」

気付けば自分はいつから捻くれてしまったのか・・・いや、捻くれてなどいないと、比古は真っ直ぐな笑顔で笑い転げる沖田を見ながら自らに言い聞かせた。
爽やかな笑い声が静かな夜の山に響いていた。
 
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