斎藤一京都夢物語 妾奉公・弐

□107.会津新選組
9ページ/9ページ


「お前に新選組を託したい」

「なっ・・・」

「俺はここに留まっていられねぇ。会津はもうもたないだろう。だが見捨てる訳にもいかねぇ。しかし・・・」

「土方さんにはまだやりたい事がある、ですか」

「あぁ!甲陽鎮撫隊なんざ糞っくらえだ!お前に託すのは新選組だ!こんな所で終わって堪るかってんだ!!このまま負けたらバラガキの名に傷が付くってもんだ!」

立場を無視した土方の無邪気で熱い叫びに、斎藤はククッと喉を鳴らして笑った。

「こんな時にあんたらしい・・・土方さん、いいでしょう。ここで会津を捨て去るは誠の義にあらず。俺が新選組の旗を会津で振って見せます。俺は会津に個人的な恩もありますしね」

ニッと顔を歪める斎藤に、土方はそうだったな・・・と同じ歪んだ笑いを返した。
新選組の副長土方は斎藤の個人的な仕事もしっかりと把握していた。互いに理解した上で信頼し力を貸し合っていたのだ。

「頼んだぞ」

「あんたも、存分に喧嘩してくださいよ、バラガキとは随分懐かしい言葉を聞いたもんだ。ククッ・・・俺はやっぱり土方さんが好きだ。最後まで楽しませてください」

「フンッ、お前もな。夢主を忘れるなよ。お前が迎えに行かねぇんなら俺が頂いちまうかなら、これはハッタリじゃねぇぞ」

「心得ていますよ、副長」

「お前が今から隊長だ。会津新選組、隊長、斎藤一」

「フッ・・・御意」

大袈裟に応えて土方をニヤリとさせるが、斎藤の本心で土方にはここで終わって欲しくないと望んでいる。

・・・負け戦は俺に任せろ、あんたは最後まで足掻いてくれ、土方歳三・・・

僅かな望みはある。
だが斎藤はこれまでの戦で身を持って体験し、感じている事があった。

思い知らされたのは官軍の力と勢いに対し、東の地で感じる数で勝ると信じきっている旧幕府勢の安堵感と緩んだ空気。
前線を知り緊迫する兵達に対して、昔ながらの戦法に固執する旧幕臣達の甘い指揮。
性能の差を見せ付けられ慌てて新しい武器を買い入れた所で、人が変わらなければ長くはもたないだろう。
自らが率いる新選組隊士達と、会津藩士達の気が引き締まっている事だけが斎藤には頼もしかった。

土方の指示で身を包む衣を洋装に変えた斎藤だが、その動きやすさには素直に驚いた。
身が軽く、動きを制限するものが無い。

・・・これは、まだ行ける・・・

時流は悪くとも、自身に対してはそう考えられた。
そんな斎藤だが、まだ総髪の髷は残されていた。

斎藤は隊外に向けて現在『山口二郎』の名を名乗っている。

新選組の指揮を任されたその山口二郎を、隊長として会津藩主・松平容保が呼び出した。
白河へ出陣前の出来事だ。
白河は江戸へ続く奥州街道沿いにある重要な地。

斎藤が呼び出された鶴ヶ城では、戦にも関わらず城内で働く女達が留まっていた。
襷を掛け、兵達の飯炊きや傷ついた者の手当てなど、女の自分達でも出来る事に力を尽くそうと動いていた。

まだ余裕があり着物の上には立派な帯も結ばれ、日本髪も結われている。

それから三ヶ月後、鶴ヶ城の篭城が始まり食料や薬も不十分な中、新式の砲弾が打ち込まれ怪我人が続出、女達は動きやすいよう髪を切り落とし帯さえも包帯として使う時がやって来る。
そんな目を覆いたくなる修羅場と化すなど、まだ誰も知らないその城に、斎藤は足を踏み入れた。

城内で自分達の戦いをする女達の中に、高木時尾はいた。
 
次の章へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ